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ISO認証機関のインターテックから厳選されたお役立ち情報をお届けします
2018.5.18発行(第20号)
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いつも大変お世話になっております。
今号では、以下の情報をお届けします。
■ISO9001:2008とISO9001:2015の主な違い
-「ヒューマンエラー」の起こる原因、対策、事例のご紹介
本メールマガジンにてご紹介している事例や考え方等は、
あくまでも一般的な考え方や事例の1つとしてご紹介しているものであり、
審査での適合性の保証や同様の取組みの導入を推奨、強制するものではありません。
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なぜヒューマンエラーについて取り上げるか
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今号では、「ヒューマンエラー」について取り上げたいと思います。
なぜヒューマンエラーについて取り上げるか?については、既にご存じの方も多いと思いますが、
ISO9001:2015への改訂に伴い、対策が必要として取り上げられている重要なテーマだからです。
●ISO9001:2008とISO9001:2015の主な違い
まずは、ISO9001:2008とISO9001:2015の違いについて改めて整理したいと思います。
改訂の背景には、「製品の品質保証」といった狭義の品質だけではなく、
顧客の要求を品質と捉え、変化する顧客要求に対応するという広義の品質に概念を広げました。
そして顧客要求に対応するための活動が経営活動そのものであると考え、
組織の現状把握や経営者のコミットメントなど、通常の事業活動において必要不可欠な取組みを
第4章、第5章、第6章に、ISO規格に共通する項目として制定しました。
そして、ISO9001:2015のみに求められる、新たな取り組みのひとつに、「ヒューマンエラーの対策」があります。
ご参考)ISO9001:2008とISO9001:2015の
主な違いの詳細は最後に記載しております。
●「ヒューマンエラー」の対策の歴史
ISO9001では、品質確保のための対策として、顧客に対して製品・サービスを生み出すための
事業活動を大きく3つのプロセス<製品実現プロセス><支援プロセス><全体管理プロセス>に分けて
それぞれの特性に合った管理を求めていました。
その中でも<支援プロセス>における取り組みは、力量ある人材を配置する、力量ある人を育てる仕組みを
作ることでミスを減らし、品質を担保しようとしてきました。
しかし、現実として、<製品実現プロセス>におけるヒューマンエラーが
事故や不具合が起こる原因となっていました。
そこで、皆さんが日常的に実施されているヒューマンエラーの対策活動そのものをルールとして構築をし、
活動を継続させようと考え、ISO9001:2015において追加されました。
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ヒューマンエラーの定義、その対策事例
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ヒューマンエラーとは、文字通り人間(ヒューマン)が原因で起こるエラーを指す言葉で、
「人的ミス」、「ポカミス」などとも呼ばれます。
機械の故障や偶発的な事故などが理由ではなく、あくまでも「人間」に責任があって生じることが特徴で、
その大半が「うっかりミス」であり、意図せず起こしてしまったエラーが時として
重大な事故や不具合に発展するという特徴があります。
ヒューマンエラーが起こる原因は、人間の行動特性に沿って、
「認知」「判断」「行動」の3段階に分類されています。
(1) 認知段階のエラー
1つ目は「認知」段階に起こるエラーで、知識や経験、理解などが不足していることが原因として発生するものです。
対象作業についての知識不足や経験不足により認識を誤る、そもそも知らないため認知できない、
作業マニュアルが複雑すぎて正しく理解・把握できていない、部品の違いが小さすぎて識別時に見落とす
などのエラーがあげられます。
<「認知」段階のエラーの事例>
『横浜市立大学医学部附属病院の患者取り違え医療事故』
手術室への患者受け渡しの際に起きた患者の取り違えが、その後においても見逃されたまま
本来受けるべきではない手術が続行されました。
間違いが起こるだろうという前提がなかった為、手術前に患者名をカルテ(客観的証拠)と照合し
確認する手順がありませんでした。
患者の取り違えは、手術前の氏名の確認に不備があったからですが、
それぞれの担送車の下のかごに患者Aと患者Bのカルテが入れてありました。
もしこのとき、カルテと患者を照合して確認していればこの取り違えは起きませんでした。
<「認知」段階のエラーの対策>
「認知」段階のエラーの回避には、下記の様な対策が考えられます。
・「5Sの徹底」:
特に整頓(どこになにがあるかが表示されている状態)されていれば、知らなかったは防げます。
・「確認作業の方法を工夫する」:
客観的事実と照合して確認する作業手順を追加するだけで患者取り違えは防げたのです。
・「教育の徹底」、「マニュアルなどの整備」:
「教育の徹底」の際には、伝え方の工夫をすることで、理解度を高め、認知エラー防止に繋がります。
例えば、近年は外国人を雇用することも多くなっている為、
口頭では細部までは伝わらない場合も考えられます。
マニュアルに「図表、フロー等を使う」、「動画にする」、「クイズ形式にし、理解度を確認する」
といった工夫が考えられます。
ISO導入企業であれば、マニュアルの整備は充分なされていると思いますが、
マニュアルがISOの規格の順番になっていることもあるようです。
規格の順番ではなく、業務の流れでマニュアルを整備し、マニュアルそのものが教育資料となるように工夫し、
設問をeラーニングのコンテンツとしてマニュアルを活用している事例もあります。
(2) 「判断」段階のエラー
2つ目は「判断」段階に発生するエラーです。
作業者の思い込みや先入観、知識不足などにより正しい判断を下すことができない場合や、
判断に至るプロセスが複雑すぎる場合などが原因としてあげられます。
<「判断」段階のエラー事例>
社会問題になっている『お年寄りによるブレーキとアクセルの踏み間違え』は、判断エラーの事例です。
(3) 「行動」段階のエラー
3つ目は「行動」段階のミスです。
作業が難しすぎる、あるいは複雑すぎるために正しく実行できないケースや、
作業員の能力不足・疲労や年齢による能力低下等により実行不能となるケース、
および作業員が意図的に手抜きをしたり(近道・省略行動)、
手順通りに実施しなかったりすることによってエラーが発生します。
行動段階のエラーを回避するためには、作業手順の見直しや複雑な作業を手助けする
ツールの導入などの対策が有効です。
また、悪意による意図的な手抜きなどに対しては、社内規則の整備、
場合によっては「罰則を設ける」などの対策を検討する必要もあるでしょう。
<「行動」段階のエラー事例>『ジェイコム株大量誤発注事件』
証券会社の担当者が「61万円1株売り」とすべき注文を「1円61万株売り」と誤って入力。
この際、コンピューターの画面に、“警告”が表示されたが、
担当者はこれを無視して注文を執行。損害額は400億円となりました。
<「判断」段階&「行動」段階のエラー対策>
・「人に判断させないような方法に変更する」
組立順序を間違えないためにガイドピンをつけた冶具などを作ります。
人が判断しないで済むよう部品などに色をつけます。
・「エラーが入り込みにくいよう手順の簡略化」
・「判断ミス(異常)があれば次の手順に進まないような(ポカヨケ)対策」
取り付ける部品が複数ある場合、構造を少し変えて違う部品であれば取り付けられないようにします。
間違いを見つける検知機能をつけて、間違っていた場合は機械や装置が作動しないよう
一時停止させる工夫をします。
・「作業を手助けするツールの導入」
ジェイコムの事件後、株式の発注システムでは、あらかじめ桁数が初期設定されているなど
誤発注を防ぐ様なシステム(ツール)による手助けがなされています。
他にも、ソフトウェア分野では、従来は自分自身でデータを保存する作業をさせていましたが、
現在は一定時間で自動的にデータをシステム側が保存し、
データを保存するという作業者の負担を減らすような仕組みに進化しています。
・「人間の健康管理をする」
<バス会社WILLER株式会社のエラー対策事例>
とことん女性目線にこだわった女性専用バスなどで急成長を遂げていた中、
三重県で高速バス事故を起こしたしまった同社は、
「二度と事故を起こさないとはどういうことか?」を全社員で徹底的に考え、
「できることは全部やろう!」と根本的な対策を含め、下記の様な対策を実施しています。
・「エラーが入り込みにくいよう手順の簡略化」:
運行データを分析し、ドライバーにとって負担が大きい場所が分かれば、
次回以降の運転ルートから外すなど運行ルートの計画などにも活用。
ISOでは多くの場面で記録を求めていますが、このように記録を活用していただけると非常に有効です。
・「判断ミス(異常)があれば次の手順に進まないような(ポカヨケ)対策」:
バスの運転手は、「フィーリズム」という脳波から眠気の予兆を感知すると震える機械を運転中は装着。
この「フィーリズム」が作動した場合、運転状況を管理する事務所側が運転停止を呼びかけ、
一時停止する仕組みを導入しています。
・「人間の健康管理をする」:
睡眠不足は深刻な疾患を引き起こし、重大事故にも繋がる為、
通勤にかかる往復時間を睡眠時間にあててもらうよう、バスの運転手用の宿泊施設を準備。
食堂では、栄養士が考えたバランスの良いヘルシー定食が用意され食生活の改善を促進。
健康診断の結果でランクが上がると報奨金を支給。
脳ドックなど健康診断も会社側が負担し、健康増進を会社が大きくサポートしています。
●ヒューマンエラーの対策の重要性
ハインリッヒの法則では「1件の重大な事故や災害の裏には、29件の軽微なミス、
さらに300件の『ヒヤリ・ハット』がある」といいます。
医療現場や製造業では個人のミスが死につながる重大事故を招く場合が多い為、
自身の「ヒヤリハット」をチームで共有することでミス防止に役立てています。
ある外科医は手術でのミスをなくすために、醤油をテーブルに置く際も
そっと置くといった日々の動作にも心を配っていると聞いたことがあります。
このように、安全意識を高く持ち、日々の地道な取り組みにより、
少しずつ状況を改善していくことが重要だといえます。
●ISOをヒューマンエラーの対策に活用
即座にミスを言ってもらえる組織は強いです。
ある新幹線運転手がメガネをかけ忘れたことに運転途中で気がつきました。
裸眼でも一応見えたそうですが、運行指令に報告し、列車は停止。
対向列車で交代乗員を送り込み事故は起こらずに済んだそうです。
他にも、ある空母の整備員はレンチ1本を紛失したことを報告。
訓練は停止し、全機が陸上基地へ帰還し事故は起こりませんでした。
そして、この正直な告白をした整備士は表彰されました。
自分のミスを言いにくいという気持ちは誰でも持っています。
しかしISOがそれを求めることで、ミスを言うことが恥だという壁を超える原動力になれば幸いです。
■ISO9001:2008とISO9001:2015の主な違い■
<変更点1>:「組織の状況への理解(第4章)」「リスクに基づく考え方(第6章)」
組織の状況(外部、内部の課題、利害関係者のニーズ・期待)を分析し、
洗い出されたリスクや機会(チャンス)への取り組み(第6章)も含め、
経営(品質)目標を立案することを求めています。
このことにより、ISO活動の本質が事後対策ではなく、予防的活動にあることがはっきりしました。
<変更点2>:「リーダーシップの強化」(第5章)
リーダーシップの強化を求めています。例えば、経営陣がISOの意義などを説明し、
目標達成にコミットする必要があること、経営とISO活動が乖離するといったことがないよう
経営活動として一体化させるよう取り組むこと、などを求めています。
<変更点3>「プロセスアプローチの適用向上 それを支援するPDCAサイクル強化と
リスクに基づく考え方の採用」(4.4)(6.1)
プロセスアプローチへの理解を求めています。
因果という言葉がありますが、プロセスが良くなければ、良い結果は出ません。
ISOでは”個人の力量”に頼るのではなく、”仕事のやり方”を定めることによって、
顧客に提供される製品、サービスの品質を一定にすることができると考え、手順書、
マニュアルの整備を推奨してきました。
手順書は継続的な改善活動の成果として、常により良いやり方に変わっていくべきでした。
しかし、実態として、
・一度定められたことがかえって手順の進化を止めてしまう、
・成果を出すための手順ではなくなってしまっている
といった弊害も生まれてしまったことから、
改めてプロセスをコントロール、進化・深化させていく必要性を求めました。
具体的には、
・付加価値を生み出すためのプロセス(仕事のやり方)であるかどうか
・プロセスが有効であるかを生み出した付加価値と関連づけて
その付加価値を評価する指標を設け、有効性を確認すること
・プロセスを監視・測定したデータを(仕事のやり方)の改善につなげること
などプロセスアプローチの目的「顧客満足」、「業務効率の向上」に繋がるような内容に強化されました。
<変更点4>「明確な文書化要求の削減」
・品質マニュアルの作成要求の他、 6つの「文書化された手順書」の作成要求はなくなりました。
(品質マニュアル、文書管理、記録管理、内部監査、不適合製品の管理、是正処置、予防処置)
勿論、組織において手順書があった方が便利であればそのまま継続してご利用いただけます。
実態としては、継続利用されている場合が多いようです。
<変更点5>「品質管理(QMS)特有の要求事項の追加」
昨今の事業形態の変化に伴い、品質確保・リスク低減のためには下記の様な管理が重要と考え、
・”変更管理”に関わる要求事項の強化、追加
・”組織の知識”に関する要求事項の追加
・”ヒューマンエラー”に関する要求事項の追加
・”引渡し後の活動”に関する要求事項の強化
・”外部から提供されるプロセス、製品及びサービスの管理”に関わる要求事項の拡大
といった項目についても言及しています。
この<変更点5>のヒューマンエラーの対策の必要性は、
ISOの改訂の国際会議の場において特に日本から強くその必要性が説かれたものです。
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