GHGプロトコルのScope3とは?15のカテゴリ分類と具体的な算定方法を解説

2025/11/28サステナビリティ

近年、企業の環境経営やサステナビリティへの取り組みが、投資家や消費者から厳しく評価される時代になりました。その中心的な指標となるのが、GHG(温室効果ガス)排出量です。特に、自社の直接的な排出だけでなく、サプライチェーン全体での排出量を対象とする「Scope3」への注目が世界的に高まっています。しかし、「Scope3とは具体的に何を指すのか」「どうやって算定すれば良いのか分からない」といった悩みを抱える担当者の方も多いのではないでしょうか。この記事では、GHGプロトコルのScope3について、その基礎知識から15のカテゴリ分類、具体的な算定手順、そして先進企業の取組事例までを網羅的に解説します。
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GHGプロトコルとScope3の基礎知識


Scope3の算定に取り組む前に、まずはその土台となるGHGプロトコルと、Scope1, 2との違いを正確に理解することが不可欠です。なぜ今、Scope3がこれほどまでに重要視されているのか、その背景と合わせて解説します。


GHGプロトコルとは?国際的な排出量算定基準

GHGプロトコルは、企業や組織がGHG排出量を算定し、報告する際の国際的なスタンダードです。 世界資源研究所(WRI)と持続可能な開発のための世界経済人会議(WBCSD)によって開発され、世界中の企業や政府に広く利用されています。 この共通の基準があるおかげで、異なる企業間でも排出量情報を比較可能となり、透明性の高い情報開示が促進されています。GHGプロトコルは、企業の気候変動戦略において、自社の排出量を正確に把握するための羅針盤の役割を果たします。
【参考】GHGとは?Scope1,2,3や種類と算定方法までわかりやすく解説


Scope1、Scope2、Scope3の明確な違い

GHGプロトコルでは、排出源を以下の3つの「スコープ」に分類しています。これにより、企業は自社の排出量を体系的に整理し、管理することができます。
スコープ  排出源の定義 具体例
Scope1  事業者自らによる温室効果ガスの直接排出 自社の工場での燃料燃焼
社用車の排気ガス
Scope2 他社から供給された電気
熱・蒸気の使用に伴う間接排出
 購入した電力の使用
地域暖房からの熱供給
Scope3 Scope1, 2以外の、サプライチェーンにおけるその他の間接排出 原材料の調達
従業員の通勤
製品の使用・廃棄
        
Scope1とScope2が自社の事業活動に直接的に関わる排出であるのに対し、Scope3は自社のコントロールが及ばない範囲の排出を対象とする点が最大の違いです。


なぜ今Scope3の算定が重要視されるのか?

多くの企業にとって、GHG排出量の大部分はScope3に起因すると言われています。 つまり、Scope1, 2の削減努力だけでは、企業の気候変動への影響を全体的に評価することはできません。サプライチェーン全体での排出量を把握し削減に取り組むことは、気候変動リスクへの対応だけでなく、新たなビジネスチャンスの発見や、サプライヤーとの関係強化にも繋がります。投資家や顧客からのESG(環境・社会・ガバナンス)への要求が高まる中、Scope3の情報開示は企業の信頼性と競争力を測る重要な指標となっています。
【参考】ref04.pdf

 


Scope3の15カテゴリを徹底解説


Scope3は、事業活動の上流(サプライヤー側)と下流(顧客側)にわたり、15のカテゴリに分類されます。 自社の事業内容と照らし合わせ、どのカテゴリが算定対象となるかを理解することが重要です。


カテゴリ1:購入した製品・サービス

事業活動のために購入した全ての製品(原材料など)やサービス(外部委託など)の製造段階までに排出されたGHGが対象です。


カテゴリ2:資本財

企業が長期間使用する設備や施設(機械、建物、車両など)の建設・製造段階で排出されたGHGを計上します。


カテゴリ3:Scope1,2に含まれない燃料・エネルギー活動

購入した電気や燃料の採掘、精製、輸送など、エネルギーが生成されるまでの過程で生じる排出量が対象です。


カテゴリ4:輸送、配送(上流)

購入した製品や原材料が、サプライヤーから自社へ輸送される際の排出量を算定します。


カテゴリ5:事業から出る廃棄物

事業活動によって生じた廃棄物(一般廃棄物、産業廃棄物)の輸送および処理(焼却、埋立など)に伴う排出が対象です。


カテゴリ6:出張

従業員が業務のために行う出張(飛行機、鉄道、タクシーなど)で利用した交通機関からの排出量を計上します。


カテゴリ7:雇用者の通勤

全従業員が自宅から職場へ通勤する際に利用する交通機関からのGHG排出量が対象となります。


カテゴリ8:リース資産(上流)

自社が賃借している(リースしている)資産の稼働に伴う排出量を算定します。ただし、Scope1, 2で計上している場合は対象外です。


カテゴリ9:輸送、配送(下流)

販売した製品が、自社から顧客や最終消費者へ輸送される際の排出量が対象です。


カテゴリ10:販売した製品の加工

自社が販売した中間製品が、他の企業によって最終製品に加工される過程で排出されるGHGを計上します。


カテゴリ11:販売した製品の使用

販売した製品が、顧客によって使用される段階で排出するGHGが対象です。特に、自動車や家電製品などで重要なカテゴリです。


カテゴリ12:販売した製品の廃棄

販売した製品が使用後に廃棄される際の輸送や処理に伴う排出量を算定します。


カテゴリ13:リース資産(下流)

自社が所有し、他社に賃貸している(リースしている)資産の稼働に伴う排出量が対象です。


カテゴリ14:フランチャイズ

フランチャイズ契約を結んでいる加盟店の事業活動に伴う排出量を計上します。


カテゴリ15:投資

投資先の事業活動からの排出量や、投融資先のポートフォリオからの排出量を、自社の持ち分に応じて算定します。
【参考】supply_chain_01.pdf

 


Scope3算定の具体的な手順


Scope3の算定は複雑に思えるかもしれませんが、GHGプロトコルが示す手順に沿って進めることで、体系的に取り組むことが可能です。 ここでは、算定の主要な4つのステップを解説します。


手順1:算定目的と範囲(バウンダリ)の設定

最初に、なぜScope3を算定するのか、その目的を明確にします。例えば、「サプライチェーンのリスク管理」「CDPなどの情報開示への対応」「製品のカーボンフットプリント算定」など目的によって、算定すべきカテゴリの優先順位や必要なデータの精度が変わります。目的を明確にした上で、算定の対象とする事業範囲(組織的範囲)と期間(時間的範囲)を定めます。


手順2:関連するカテゴリの特定とデータ収集

次に、自社の事業活動と15のカテゴリを照らし合わせ、算定対象とするカテゴリを特定します。全てのカテゴリを一度に算定するのは困難な場合が多いため、排出量への影響が大きいと想定されるカテゴリや、データ収集が比較的容易なカテゴリから着手するのが現実的です。対象カテゴリが決まったら、排出量を計算するために必要な活動量データ(購入した製品の重量、輸送距離、廃棄物の量など)の収集を開始します。
データ収集方法 メリット デメリット
実測値 精度が高い 収集にコストと時間がかかる
サプライヤーからの提供 比較的正確なデータが入手可能 サプライヤーの協力が不可欠
業界平均値や推計値 データ収集が容易 精度が低くなる可能性がある
 

手順3:排出量原単位の選定と計算方法

収集した活動量データに、適切な「排出量原単位」を乗じることで、GHG排出量を計算します。排出量原単位とは、活動量あたりのGHG排出量を示す係数です(例:電力1kWhあたりのCO2排出量)。環境省や各種業界団体が公表しているデータベースから、自社の活動に最も適した原単位を選定します。
計算式: GHG排出量 = 活動量 × 排出量原単位


手順4:算定結果の報告と検証

算定した結果は、サステナビリティレポートや統合報告書、ウェブサイトなどを通じてステークホルダーに報告します。その際、算定の前提条件や範囲、使用したデータや原単位などを明記し、透明性を確保することが重要です。また、データの信頼性を高めるために、第三者機関による検証を受けることも有効な手段です。
【関連記事】GHGとは?Scope1,2,3や種類と算定方法までわかりやすく解説
 
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Scope3算定における課題と解決策


Scope3算定には、特にデータ収集の面で多くの企業が課題に直面します。ここでは、代表的な課題とその解決に向けたアプローチを紹介します。


データ収集の網羅性と正確性の担保

サプライチェーンは広範かつ複雑であるため、全ての活動量データを網羅的に、かつ正確に収集することは極めて困難です。まずは、排出量へのインパクトが大きい主要なサプライヤーやカテゴリに絞ってデータ収集を開始し、徐々に対象範囲を拡大していくアプローチが効果的です。また、初期段階では業界平均値や推計値を活用しつつ、段階的にサプライヤーから提供される一次データの割合を高めていくことが求められます。


サプライヤーとの連携強化

Scope3の大部分を占める上流の排出量を正確に把握するには、サプライヤーとの協力関係が不可欠です。サプライヤーに対して、GHG排出量算定の重要性を説明し、データ提供を依頼する必要があります。アンケート調査や勉強会を実施したり、算定に関するノウハウを提供したりするなど、サプライヤーが取り組みやすい環境を整える「サプライヤーエンゲージメント」が成功の鍵となります。


算定ツールの活用と専門家への相談

膨大なデータを効率的に処理し、排出量を算定するためには、専用の算定ツールや管理システムの活用が有効です。これらのツールは、各種排出量原単位データベースと連携しており、計算の自動化やデータの一元管理を可能にします。また、算定範囲の設定や原単位の選定など、専門的な知見が必要な場面では、外部のコンサルティング会社など専門家の助言を求めることも、正確かつ効率的な算定を進める上で重要な選択肢となります。


国内外企業のScope3算定と削減の取組事例


Scope3算定に先進的に取り組む企業は、どのように課題を乗り越え、削減活動に繋げているのでしょうか。具体的な事例から、実践のヒントを探ります。


トヨタ自動車の包括的なScope3削減戦略

トヨタ自動車は2022年9月にSBTiからScope1・2およびScope3 Category11の削減目標について認定を受けました。同社は2035年までにScope1・2を2019年比で68%削減、Scope3 Category11(製品使用時排出)については、乗用車・小型商用車で2030年までに排出原単位を33.3%削減する目標を設定しています。特に注目すべきは、製品ライフサイクル全体を通じた電動車の普及推進で、「エコカーは普及してこそ環境への貢献」という考えのもと、多様な地域ニーズに対応したカーボンニュートラル選択肢の提供に取り組んでいます。
【参考】方針 | ESG(環境・社会・ガバナンス)に基づく取り組み | サステナビリティ | トヨタ自動車株式会社 公式企業サイト


マイクロソフトのバリューチェーン全体でのScope3対策

マイクロソフトは2030年までにカーボンネガティブを目指す野心的な目標を掲げ、Scope3排出量削減に向けて包括的なアプローチを実施しています。同社は2024年度環境サステナビリティレポートで、Scope3排出量が30.9%増加したことを公表する一方、80を超える対策を実施してScope3削減に取り組んでいることを明らかにしました。特に重要なのは、2030年までに主要サプライヤーに100%カーボンフリー電力の使用を義務付ける取り組みで、これによりサプライチェーン全体での脱炭素化を推進しています。同社はまた、7億9300万ドルの気候イノベーション基金を通じて、新たな気候技術の市場投入と普及促進を支援しています。
【参考】2025 Environmental Sustainability Report | Microsoft

 


Scope3算定がもたらす企業価値の向上


Scope3算定は、単なる環境負荷の把握に留まらず、企業の持続的な成長に向けた多くのメリットをもたらします。


新たなビジネス機会の創出

サプライチェーン全体の排出量を可視化することで、これまで見えていなかったエネルギーの無駄や非効率なプロセスを発見できます。これらの課題を解決する製品やサービスを開発することは、コスト削減だけでなく、新たな収益源の創出に繋がる可能性があります。


投融資におけるESG評価の向上

近年、投資家は企業のESGへの取り組みを重視する傾向を強めています。Scope3を含むサプライチェーン全体の排出量を正確に開示し、削減目標を掲げて取り組む姿勢を示すことは、ESG評価を高め、資金調達を有利に進める上で重要な要素となります。


ブランドイメージと競争力の強化

環境問題への意識が高い消費者や取引先は、企業のサステナビリティへの姿勢を厳しく評価します。Scope3の算定と削減に積極的に取り組むことで、環境先進企業としてのブランドイメージを確立し、市場における競争優位性を高めることができます。
【関連記事】GHG排出量検証/CFP(カーボンフットプリント)/LCA(ライフサイクルアセスメント)検証


まとめ


GHGプロトコルのScope3算定は、企業のサプライチェーン全体にわたる環境責任を明確にし、持続可能な経営を実現するための不可欠なプロセスです。算定には多くの困難が伴いますが、その取り組みはリスク管理の強化、コスト削減、そして新たな企業価値の創造へと繋がります。本記事で解説した内容を参考に、Scope3算定への第一歩を踏み出してください。
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