連載(14) リスクアセスメント

2007/04/16Intertek News(16号)

環境主任審査員 郷古 宣昭 Nobuaki Goko

 ISO14001に関連する評価技術の第3弾としてリスクアセスメントについて話します。ISO14001ではリスクアセスメントは必須事項ではありませんが、リスクの概念は規格の随所に見られます。例えば、著しい環境側面の決定の際には著しい環境影響を与える環境側面だけでなく、「環境影響を与える可能性のある側面」を考慮することが求められますし、環境保全活動については「汚染の予防」という言葉で代表されます。「汚染の予防」とはリスク管理に外ありません。

 リスクアセスメントとはリスクを評価することであって、通常以下のように「起こりうる可能性」と「結果の重大性」の論理積で表されます。

リスク=起こりうる可能性×結果の重大性

 「結果の重大性」は取り扱う物質の危険性・有害性や物性、保有量・取扱量、さらに影響を受ける周辺環境の感受性などに左右されます。一方、「起こりうる可能性」は設備の老朽状態、保守状態や手順の確立の程度、作業者の習熟度等ハード・ソフトの管理状態に左右されます。当然ながら、これらの諸要素の状態を勘案して点数付けすることになります。

 リスク評価する際に留意すべき事項があり、その第1点は、管理された状態を過大視しないことです。例えば、廃棄物を小型焼却炉で処分する場合、設備が法規制を満足しているから「ダイオキシン生成」のリスクはないとしていいでしょうか。そもそも、管理の状態はいつも100%完璧であるとは限りません。焼却すべき廃棄物が雨で濡れた時、停電の時、運転開始時、測定温度が正しくないとき、設備の一部に異常が生じた時など、たちまちダイオキシン発生の可能性が出てきます。したがって、管理状態を過信せず、むしろさまざまな状況を仮定してリスク評価する必要があります。

 第2の留意点は、この方法は主として「汚染の予防」にしか適用されないことです。「資源の有効活用」には馴染まないし、「間接的影響の側面」にも適用は困難です。資源については「枯渇度」「使用量」、また、間接影響を持つ側面については「影響を及ぼせる程度」を考慮する必要があります。

 また、発生頻度と結果の重大性が相殺しあって、リスクの大小が予想通りに表れないことがしばしば見られます。筆者の経験では「結果の重大性」に、より重みを付けるとうまくいくようです。例えば、「起こりうる可能性」を1~5の5段階に点数付けするのに対して、「結果の重大性」を1, 3, 5, 10に点数付けするなどです。重大性のスコアとして何を基準にするかも重要です。これは組織の性質によるところが多いようです。エネルギー多消費型の組織であればCO2排出量換算値、有害化学物質を多量に使用している場合であれば毒性が指標となります。更に、「結果の重大性」の意味には環境汚染以外にビジネス上の損害が問題になることもあります。一般に、法や条例で規制されている事項や利害関係者の関心事が高いスコアになります。

 このようにして決定されたリスクは「大中小」或いは「ABCD」と分類されてリスク低減対策がとられます。その際、重要なことはそのリスク低減対策後に予想されるリスクを再評価することです。このとき、対策後もなお許容可能なレベル以下にならない場合は追加の対策が必要です。更に、許容可能なレベルまで改善が予想されたとしても、その実行計画、確認、完了後の監視が必要です。これはISOではそれぞれに「目的・目標」「実行計画」「運用管理」「監視」として展開することになります。

 以上、リスクアセスメントの要点を述べましたが、これは環境負荷の比較的大きい組織の「汚染の予防リスク」に適用される評価方法の一つであること、実際には組織の状況にあわせて工夫していかねばならないことを申し添えます。次回は「サステナビリティー」について解説します。