連載(17) エネルギー問題(1)

2008/01/15Intertek News(19号)

環境主任審査員 郷古 宣昭 Nobuaki Goko

 昨年(2007年)6月に決定された「21世紀環境立国戦略」の中で、深刻化する環境問題を「3つの危機」として①地球温暖化の危機 ②資源の浪費による危機 ③生態系の危機を採り上げています。

 これらは相互に関連しあうものであり、例えば、石油の消費は石油資源の枯渇を招き、石油の燃焼によって生ずる二酸化炭素は温暖化をもたらし、温暖化は生態系を破壊します。確かに石油は地球史的尺度で見ると、ごく短時間に偶然形成された限りある資源であり、世界中で争奪戦が繰り広げられ、価格は高騰しています。石油は枯渇のフェーズに入ったのでしょうか。そうではなさそうです。現在のように90ドル/バーレル超の価格が恒常化すると、オイルサンドやオイルシェールなど低品位のものが採掘可能になり、可採埋蔵量は100年分にも及びます。石炭を含めた化石燃料全体では1000年分にも達し、深海に眠っているメタンハイドレートの利用が将来可能になると更に増え、当分枯渇の可能性は少ないように思われます。一方、化石燃料の燃焼による汚染や温暖化は数百年後の人類の存続を危うくするものであり、遥かに深刻な問題と言えます。エネルギー問題は資源の観点より、これによる汚染や温暖化を優先的に考える必要があります。

 わが国のエネルギー源としては石炭、石油、天然ガス等の化石燃料が82%、原子力が12%、水力・地熱等が5%程度で、太陽光、風力、バイオマス、廃棄物を合わせた新エネルギーは1.2%(2003年)です。これら新エネルギーを2010年には3%まで高める目標を掲げていますが、目標自体がEUが域内の再生可能エネルギーを2020年に20%にすることと比べて見劣りしますし、3%達成すら無理なようです。

 原子力は二酸化炭素を排出しないので原子力発電の稼働率を上げることが国の基本施策に入っていますが、まだなお安全性に関する懸念が払拭できず、稼働率は低迷したままです。世界的にも、安全性や核兵器製造への転用の懸念があること、処理不能の廃棄物を次世代に残すなどの理由で受け入れられていないようです。結局、しばらくは化石燃料を効率的に使用することで、新エネルギーの成長を待つしかないと思われます。

 化石燃料の燃焼による二酸化炭素の排出量は表に示すように燃料種によって異なります。石油系燃料は炭素と水素からなる炭化水素であり、水素の含有量が多いほど二酸化炭素の排出量が下がります。発熱量ベースの二酸化炭素排出量は、石炭が最も多く、次に重油、軽油、灯油、ガソリンの順で下がり、LNG(天然ガス:メタン主成分)で最小になります。

 上表に示す電力使用による二酸化炭素排出量は全電源平均値であり、算定のために環境省が定めたものです。実際には原子力発電の稼働率で変動するほか、送電ロスも影響するので電力供給会社によっても異なります。1995年から始まった「電力自由化」で電力小売事業が認められると共に、需要家は電力供給会社を選ぶことが可能になりました。二酸化炭素排出量の少ない電力を優先的に使用することを義務付けた法律「環境配慮契約法」も公布されましたがこれらが機能するにはまだ時間がかかりそうです。

 環境保全活動を進めるためには二酸化炭素の排出量の最小化は避けて通れません。エネルギー源別の二酸化炭素排出量を把握し、ボイラーや炉の効率化、作業工程の効率化を図ることが益々重要になってきました。

 次回は、最近話題のバイオエタノール、燃料電池、水素社会について考えてみることとします。