連載(19) エネルギー問題(3)
2008/07/15Intertek News(21号)
環境主任審査員 郷古 宣昭 Nobuaki Goko
今回は各種エネルギーの第3弾として燃料電池について紹介します。
燃料電池は化学反応を直接電気に変換する発電システムであり、火力発電のように燃焼による熱エネルギーを介在させないために発電効率が高いことが特徴です。反応は水素と空気中の酸素による水の生成だけなのでクリーンなエネルギーとみなされています。付表に代表的な4種の燃料電池の特徴を示しました。水素イオンのみを通す媒体(電解質)が何であるかにより作動温度範囲が異なり、それにより発電効率が左右されます。表中の総合効率はセルの冷却排水を温水として利用(いわゆる「熱電併給」)した場合の全効率です。
固体高分子型(PEFC)は自動車用に開発が進んでおり、有害ガスや騒音を発生しないことも評価されています。燐酸型(PAFC)は最も古くから宇宙船等で実用化されていますが、次世代技術としては中途半端です。溶融炭酸塩型(MCFC)は大規模発電設備用に既に実用化されています。固体酸化物型(SOFC)は各家庭に温水と電力を同時に供給する熱電併給システムとして、また、大規模発電所や送電線を必要としない次世代型分散型エネルギー供給システムとして開発が進んでいます。
燃料電池実用化上の最大の問題は、原料水素が単独で存在しないことです。水素を得る方法として化石燃料を触媒で改質(炭化水素と必要に加えた水を分解し水素と二酸化炭素を生成する)する方法が古くから実用化されていますがこの方法では二酸化炭素の生成は避けられません。水を電気分解することによっても水素が得られますが、これには膨大なエネルギーを必要とします。原子力を用いて熱化学的に水素を取り出す案も提案されていますが、これも通常の原子力発電と比べて遥かに不効率です。家庭用燃料電池を開発しているガス会社は、既設のパイプラインで送り込んだ都市ガスから水素を取り出す「改質器」を燃料電池に組み込むことで対応しています。自動車用の場合は水素源としてガソリンスタンドに代わる水素ステーションを必要としますが、水素製造基地、配管、ボンベ(自動車用は75mPaもの高圧が要る)などのインフラ整備が必要で実現は容易ではありません。
燃料電池による家庭用熱電供給システムは現在の大規模発電システムに取って代わるものではなく、化石燃料の有効な活用法の一つとして位置づけられるでしょう。また、自動車用燃料電池は水素インフラを必要とする事から、限定された範囲内での利用に留まるでしょう。
以上、いくつかのエネルギーを3回にわたって概括しましたが、結局のところ化石燃料に代わる次世代エネルギーはまだ見えてきません。少なくとも今後数百年間は化石燃料を温存しつつエネルギー源を多様化してゆかねばなりません。具体的には下記の点が望まれます。
- ①化石燃料の使用法として、発電所・製鉄所など大規模設備には埋蔵量の多い石炭を使用し、発生する二酸化炭素は吸収分離し、地中貯留する。小規模設備には二酸化炭素排出量の少ないLPGや天然ガスを用いる。
- ②原子力発電を積極的に利用する。ただし原料のウランも枯渇資源であることを認識する。
- ③太陽光発電、風力発電、潮力発電やバイオ燃料の使用比率を戦略的に拡大する。バイオ燃料については食料生産と競合しない国際ルール作りが必要である。
次回は資源問題についてお話します。