連載(20) 資源問題(1)

2008/10/15Intertek News(22号)

環境主任審査員 郷古 宣昭 Nobuaki Goko

 資源といえば①エネルギー資源、②食料資源、③鉱物資源、そして④水資源がありますが、①のエネルギー資源については前回までの「エネルギー問題」の中で言及しているので今回は食料問題についてお話しします。

 昨今、トウモロコシや小麦、大豆などの食料資源が高騰し、これがあらゆる加工食品の価格を押上げ、食料不足を招き、世界中に不安を与えています。ガソリンに添加するエタノールを製造するのにトウモロコシやサトウキビ、小麦が使われだしたことがきっかけです。これに加えて中国などの東アジアでの食肉需要が増加し、飼料用穀物の需要が増加したこと、異常気象による生産不良、更に米国のサブプライムローン問題で行き場を失った投機マネーが流入したことがこの問題を大きくしました。

 バイオエタノールが問題になったのは、原油の高騰を背景に米国の輸出用トウモロコシがそっくり燃料用アルコールの原料に回ってしまい、先進国の車を走らせるために途上国の食卓から食べ物を奪う構図となったこと、しかもそのための政府奨励金が出ていることが批判の的になりました。洞爺湖サミットにおいてもバイオ燃料として食料穀物を利用することの功罪が議論されましたが決着はつきませんでした。しかしながら、エネルギー源の多様化の観点からバイオ燃料は重要であり、今後雑草や麦わらなど食料と競合しない原料を用いる「第二世代のバイオ燃料」に注力すべきことが合意されました。そのためには高活性酵素反応技術や分離膜を用いた水/エタノール分離技術、栽培コストを下げる遺伝子組み換え技術などが重要な要素技術となって急速に展開することが期待されます。

 東アジアの食肉需要の急増についてはいかんともしがたく、穀物の自給率を高め、米国依存からの脱却を図るしかありません。低コストの飼料穀物、例えば飼料稲の栽培が必要であり、牛肉1kgを得るのに11kgの穀物を与える現在の畜産のあり方も見直して、草や葉の部分を食べさせることも考慮する必要があるでしょう。温暖化による異常気象については不可避なこととして対応策を考える必要があるでしょう。基本的には温暖化に対応した品種の選択と節水農法の開発・展開です。既に「コメ高収量システム」と言う節水型高収量稲作技術が日本のNPOの支援で東南アジアに展開しています。

 今回、世界を襲った食料問題は「食料安全保障」の考え方を人々に提起し、それぞれ自国の食料確保に走らせるに十分でした。その意味では日本の食料自給率が40%を切っていると言うことは先進国の中では際立って低いということ、従ってこれを上げることが急務であることを認識する必要があります。もはや、お金の力に任せて食料を買い集める時代は終わりました。活力を失った農業を再生し、自給率を上げていくことでしか私たちの腹を満たすことはできない時代が来ているのです。農水省は平成22年に自給率45%を目指していますが、目標が過小なうえ、既得権に縛られ具体的な施策がないことが気になるところです。石油漬け農業(温室栽培、遠方からの輸送産物)から脱皮し、地産地消と旬のものを食す環境配慮の食生活を定着させ、環境保全と一体化した土地利用が重要でしょう。また、農業の担い手としてリタイア世代の活用、農業経営の法人への解禁などの抜本施策がなされねばならないと思います。某民間企業が、野菜などを効率的に栽培するために、発光ダイオードと太陽電池を組み合わせ、液体肥料と温度を制御する農産物生産システム(植物工場)計画を発表しました。食料問題の解決の選択肢の一つとして注目されます。

 次回は資源問題その(2)として鉱物資源についてお話します。