連載(23) 不況を乗り切る

2009/07/15Intertek News(25号)

環境主任審査員 郷古 宣昭 Nobuaki Goko

 今回は前回予告していた「エネルギーと資源のまとめ」を取りやめ、喫緊の課題である「金融恐慌乗り切り策」について述べます。

 現在、100年に1度といわれる経済恐慌に多くの企業があえいでいます。この苦境はじっと耐え忍んでいればやがて春(好況)になるのでしょうか?どうも違うようです。今回の不況は金融バブルの崩壊であって、偽りの金融資産を元手に実力以上の買い物をしていたことが原因で起きた恐慌です。従って、これは完全に元の状態に戻る事はないと見るべきでしょう。好況と不況を繰り返すいわゆる「景気の循環」の一過程ではなく、歴史的な変革期にあることを感じている企業経営者も多いと思います。

 消費者の価値観は既に変わってきております。企業経営者も新しいパラダイムの導入が必要のようです。5000年前の「農業革命」が文明史上の第一革命で、富の蓄積と支配者/被支配者をもたらし、200年前の「産業革命」が第二革命として大量の工業製品とグロ-バリゼーションをもたらしたとすると、今始まっている次世代の地球を救う動きは正に第三の革命「環境革命」の始まりであると環境監査研究会の後藤俊彦氏は語っています。グリーンニューディールと言われる政策はそれに沿った方向転換であり、同時に収縮した雇用基盤を補う政策と言えます。

 環境配慮製品は今まで以上に求められるでしょう。自動車は個人の嗜好やステータスによって選ばれるのではなく、環境汚染と移動手段とを考慮した合理性が重視される傾向が出始めています。これからは、レンタカーやカーシェアリング、或いはドライブアンドライド、更には、車を必要としない交通システムやコミュニティーに対する需要が増えてくるように思います。一般商品についても個人の財産としての所有価値に加え、サービスを受ける手段としての位置づけが高まるでしょう。すなわち、「売りきり」ではない「販売+サービス」の形態が増えてくるでしょう。

 これを後押しするのは、急速な少子高齢化です。筆者の友人の一人が少子高齢化の進んだ地方で小さな電気店を営んでいますが、高齢者の家で電灯の交換や、電気機器の調整・修理を引き受けることにより安定した収支を得ているとのことです。少子高齢化社会は日本だけの傾向ではなく、中国、中央アジア、シンガポール、タイが少子高齢化に向かうと予想されます。

 「環境」と「少子高齢化」は21世紀のパラダイムであり、この分野にこそ新たな需要とビジネスがあります。この不況でちぢこまっているばかりでは何の解決にもなりません。これまで培った技術力を信じ、みんなでアイディアを出しあうことによって新製品展開や既存製品・サービスの差別化に挑戦しましょう。これにより受注の落ち込みを補い、さらには次の主力製品・サービスに繋げることができるでしょう。

 ところで、企業が危機を乗り切って事業を継続するためには、まずは現状のコストを削減してゆかねばなりません。これまで取り組んでいた省資源・省エネルギー活動を見直す必要があります。例えば、操業短縮に伴って総エネルギーが減少したけれども原単位評価で増大したのであれば意味がありません。不況時こそ厳しく限界を見極めることが必要です。次のような点検をしてみましょう。

  • -冷却水温維持に冷凍機が必要か(冷水塔だけで対応できないか)
  • -電気炉はガス炉に変更できないか
  • -原料保管に温度管理が必要か、必要なら限界温度範囲は如何程か
  • -照明器具の設置位置は適切か(高すぎないか)
  • -設備始動時のならし運転の時間は適切か(長すぎないか)
  • -圧縮空気ラインに漏れはないか
  • -蒸気・温水ラインの保温は十分か
  • -歩留りは上がらないか
  • -作業時間は短縮できぬか、生産性の向上は限界か
点検結果が満足できるレベルでなかったら、この際、徹底的に調査して改善策を立て、果敢にトライしてみましょう。

 この不況を乗り切るためには、これまでの省資源・省エネルギー活動にメスを入れること、及び、パラダイム変化を読み取って新たなビジネス開拓に果敢に取り組むことが重要です。それは、結局のところ21世紀のビジネスに対する処方箋にもなるわけです。次号ではISO14001に戻って取得済み組織向けの「ISO14001の効果的な運用」について解説します。