連載(26) 東京都の温室効果ガス削減規制と排出量取引

2010/04/15Intertek News(28号)

環境主任審査員 郷古 宣昭 Nobuaki Goko

 東京都が排出権取引制度を取り入れた温室効果ガス(GHG)の排出削減規制を本年4月から開始しました。MICも検証機関として登録が受理され、GHGの検証事業に乗り出すこととなりました。この制度の仕組みについては本誌の特集記事を参照願い、ここでは排出権取引について概説し、それが事業者にとってどのような意味を持つかを考えてみます。

1. 排出権取引とは?

 排出権取引とはGHGを排出する権利を割り当て、その「排出権」を市場で売買することです。「排出権」を「汚染物を排出してよい権利」と受け取られかねないことを考慮して国や自治体は「排出量」と呼んでいます。
 売買はGHGの削減割当量が達成できなかった場合、削減不足量を「排出権」として、割当て以上に削減した企業から余剰削減分を購入します。この制度により、削減割当量未達成の企業は更なる高いコストを掛けて自力で削減するのか、市場価格で排出権を購入するのかを選択することが可能となり、削減割当量を超過達成した企業は超過分を売って事業の収支に加えることができます。そして全体の削減量は低コストで達成されることになります。

2. 排出量取引の種類
2.1 キャップアンドトレード方式
GHGの総排出量を予め決め、それらを該当事業所に排出枠として配分し、その一部を取引する方法です。排出枠の割当ては過去の排出実績を基に決める方法(グランドファザリング)と公開入札で販売する方法(オークション)があります。東京都はオフィスビル(学校、ホテル、病院、庁舎、ショッピングモールを含む)に対して過去3年間の実績平均を基準として8%、工場に対しては6%の削減義務を設定しました。
2.2 ベースラインアンドクレジット方式
省エネプロジェクトが実施された場合、それが実施されなかった場合の排出予想量と比べて、削減量として取引する方法。東京都内の中小規模事業所が東京都が提示した省エネ対策によって生じた削減量を売ることができます。ただし、上記ベースラインを確定するために都が定める様式で予めGHG排出実績値を報告しておく必要があります。
3. 東京都のGHG排出量取引制度の意味

 東京都の制度は以下の点で重要な意味があります。

  • ①GHG排出について、原単位ではなく「総量」での削減を、また、自主的ではなく罰則を伴う「義務」として課していること。
  • ②GHG排出削減率は既に都が宣言している目標「2020年に2000年比25%削減」を視野に入れて設定していること。
  • ③日本最初の本格的な排出権取引であること。将来的には国外のEU-ETS(EU域内排出権取引制度)との連携も視野に入れていること。
  • ④都内の中小規模事業所も要件を満たせば排出権の売り手になれること。
  • ⑤GHG排出量は金額換算されることから、事業と同次元でGHG排出を管理し、努力する必要が出てきたこと。
 これはやがて全国に波及し、中小規模の事業所にも大きな影響をもたらすものと思われます。

 次回は「生物多様性」について解説します。