連載(27) 生物多様性(1)

2010/07/15Intertek News(29号)

環境主任審査員 郷古 宣昭 Nobuaki Goko

1. 生物多様性とは何か

 生物は約40億年に及ぶ進化と分化を繰り返し、多種多様な生物として食物になったり、棲みかになったりして相互関係を築き、微妙なバランスを保って今日のような豊かで多様な世界を創造して来ました。それを「生物多様性」と称しており以下のように分類されます。

  • ①種(シュ)間の多様性
    国際自然保護連合(IUCN)が確認している生物種は164万種であり、未確認の種も含めると1000万~3000万種は存在すると言われています。それぞれの生物が基本的に自分を守って、限定された決まったものを食すことにより動的平衡を保ち、地球に多様な生物の繁栄をもたらしています。
  • ②生態系の多様性
    生態系とは「生物と非生物的環境との相互作用のシステム」を言い、森林や草原、里山、湿原、干潟、河川、サンゴ礁等があります。
  • ③遺伝子(種内)の多様性
    同種の生物でも、たとえば同じ「ヒト」でも一人一人はさまざまな身体的な特徴に違いがあるのは遺伝子の多様性のためです。
2. 生態系サービスとは何か

 生態系にはエネルギーや物質の循環、生物の生命活動を基本とする多様な機能があり、その中で人間が受ける恩恵を総称して「生態系サービス」と言います。直接的には食料(海の幸、山の幸)や薬(医薬の40%は自然物由来)であり、間接的には酸素吸収、二酸化炭素吸収、水源涵養、気候調節、排水浄化、昆虫受粉などです。国連環境計画(UNEP)は2005年に発表した「ミレニアム生態系評価」の中で生態系サービスを、①供給サービス(食料、燃料、木材、繊維、水、薬品等)②調整サービス(気候・水資源・疾病・土壌浸食の制御、受粉媒介)③文化サービス(美的資源、癒し)③基盤サービス(光合成、栄養塩循環、水循環)に分類しています。

3. 生物多様性の喪失と生態系の劣化

 過去、地球は5回の種(シュ)の絶滅を経験していますが、IUCNの報告では現在進行中の種(シュ)の絶滅速度は過去の絶滅速度の100~1000倍であり、哺乳類の21%、鳥類の12%、両性類の30%、魚類の37%、顕花植物の73%が絶滅の危惧があると警告しています。過去5回の絶滅は隕石の衝突や、海水位の低下が原因でしたが、現在進行している種の絶滅原因は①開発や乱獲、②里山・里地などの自然の手入れを怠ったことによる自然の劣化、③外来種の持ち込みによる生態系の攪乱、④地球温暖化であり、いずれも人為的な影響です。
 また、「ミレニアム生態系評価」では生態系の劣化は過去数十年間で24種類の生態系サービスのうち15種類が低下していることを報告しています。今が第6の生物絶滅期であるとしても人類は生き延びるでしょう。だが、生態系サービスの著しい低下は人類に無残な影響と多大なコスト負担を強いることになるでしょう。

 次回はこれらに対し、国や国際社会はどのように対応しようとしているのか解説します。