連載(28) 生物多様性(2)
2010/10/15Intertek News(30号)
環境主任審査員 郷古 宣昭 Nobuaki Goko
前回は人類を含む全ての生命の存立基盤である「生物多様性」が急速に失われていることを述べました。その問題に対して国際社会と国はどのように対応し、また対応しようとしているのか、考察してみることとします。
1. 生物多様性条約
多種多様性を包括的に保全し、生物資源の持続的可能な利用を行うための国際的な枠組み条約が1992年のリオデジャネイロで開催された地球サミットの場で採択されました。条約の目的は①多様な生物をその生息環境とともに保全する、②生物資源の持続可能な利用、③遺伝資源の利用と公平な利益の配分です。現在米国を除く191カ国と地域が参加しており、条約の目的を実現するために締約国会議(COP)がほぼ2年毎に開催され、以下のような重要な取り決めが行われました。()内は主要議題となった会議を示す。
- ①カルタヘナ議定書(COP4;1998年)
遺伝子操作で改変された生物が生物多様性の保全に及ぼす悪影響を防止するための措置と規制。 - ②エコシステムアプローチの原則(COP5;2000年)
「エコシステム」とは生態系のこと。土地資源、水資源、生物資源を複合体として統合管理し、持続可能な利用を促進するための12原則を採択した。 - ③2010年目標の設定(COP6;2002年)
「生物多様性の損失速度を2010年迄に顕著に減少させる」という目標を採択し、具体的なゴール(最終目標)とターゲット(目標)を定めた。 - ④「生態と生物多様性の経済学(スクデフレポート)」の発表(COP9;2008年)
経済シナリオでの予測では2050年までに生物多様性が11%減少し、森林の損失は世界のGDPの6%に達すること等が記載されている。 - ⑤ABS(遺伝資源のアクセスと利益配分)(COP6,8;当初から・・)
本条約の目的の1つとして当初から話し合われてきたが、遺伝資源を多く所有する途上国とその資源を使用して食品や薬品を製造している先進国との間の利益配分をめぐって対立し、合意が得られていない。
2. 生態多様性国家戦略
生物多様性条約締結国はそれぞれの国で実現させる国家戦略を策定している。日本は第一次(1995年)、第二次(2002年)を経て、第三次国家戦略が2007年に策定され、この中で、重点課題として4つの危機への取り組みを決定している。
- ①第1の危機;開発や乱獲による種の絶滅、生息地の減少
- ②第2の危機;里地里山などの手入れ不足による質の変化
- ③第3の危機;外来種持ち込みによる生態系の攪乱
- ④第4の危機;地球温暖化による多くの種の絶滅や生態系崩壊
また、国土の生態系を100年かけて回復させる計画を提唱している。
3. COP10名古屋会議の課題(2010年10月18~29日開催)
COP10の主要な議題は、①2010年目標の評価、②ポスト2010年目標、③ABSの国際的合意である。このうち2010年目標に対しては、国連環境計画(UNEP)からは生物種の減少や外来種の増加は歯止めがかからず、国際目標は達成できなかったと発表されている。また、国内においても「生物多様性総合評価検討委員会」による過去50年間のデータ検証から、第2、第3の危機は増大しており第4の危機に対しても脆弱性が懸念されるとしている。いずれにしろ厳しい評価は免れられず、ポスト2010目標として実効性のある合意を期待したい。
次回は生物多様性(その3)としてCOP10の結果を考察しつつ、既に発表されている「生物多様性国家戦略2010」について考えてみる。また、紙面に余裕があれば欧米で行われている「生物多様性オフセット」についても言及したい。