連載(29) 生物多様性(3)
2011/01/17Intertek News(31号)
環境主任審査員 郷古 宣昭 Nobuaki Goko
前回は喪失しつつある「生物多様性」に対する国際的取り組みについて述べましたが、今回はその続きとして名古屋で行われたCOP10の結果を説明します。
10月28日から名古屋で開催されていた生物多様性条約第10回締約国会議COP10は幕切れ寸前の10月30日未明に「愛知ターゲット」及び「名古屋議定書」「資金動員計画」の3つの議決を揃って採択しました。先進国と途上国の国益が激突し、合意が困難視される中でのギリギリの決着でした。
この3つの議決について簡単に説明します。
1. 愛知ターゲット(ポスト2010目標)
- 戦略A:各国は生物多様性を主流化する。(優先的に考慮する)
- 戦略B:生物多様性に悪影響を与える原因を減少させる。
- 戦略C:生態系、種及び遺伝子の多様性を積極的に守る。
- 戦略D:生物多様性の恩恵を全ての人に行き渡るよう強化する。
- 戦略E:全ての人が参加できる計画が立案される。
- ● 森林を含む自然の生息地の消失速度を半減~ゼロにする。
- ● 陸に占める保護区の割合を現在の12%から17%に、海の保護区の割合を現在の1%から10%に拡大する。
- ● 魚類、無脊椎動物の資源の過剰漁獲を避け、生態系に対する漁業の影響を生態学的な安全限界の範囲内に抑える。
- ● 侵略的外来種とそれが定着する経路を特定し、優先度の高い種が制御される。
2. 資金導入計画
2020年目標達成のためにどれくらいの資金が要るのかを打ち出すことが出来ず、2012年までに見極めてCOP11で具体的資金計画を策定することが合意されました。
3. 遺伝資源へのアクセスと利益配分に関する名古屋議定書
医薬品や食品のもとになる動植物など遺伝資源の利用については、2002年のヨハネスブルグサミットで「利益配分のための国際的制度の構築」が決定されたものの、資源保有国である途上国とそれを利用する先進国とで合意が得られないままCOP10まで引きずってきた難物でした。最後に提示された議長案はいくつかは途上国に有利に、またいくつかは先進国に有利に振り向けられ、合意が至難な点については曖昧にしたままでした。以下がその骨子です。
- ● 遺伝資源を利用する場合は原産国の許可を必要とする。
- ● 資源利用国は原産国側と利益配分について個別契約する。
- ● 各国は不正持ち出しを監視する機関を1つ以上設ける。
結局のところ今後の運用については、肝心な部分は当事者間契約となり、利益配分をいつまで遡及させるのか、派生品(元の有効成分をヒントに合成したもの)の取扱い等については言及がありません。
以上、3つの採択された議決は妥協の決着ではありましたが、国際社会が再び一丸となって地球環境問題へ取り組んでいくという意思を示したこと、まがりなりにも筋道が付けられたことで大きな意味をもつものです。
次回は生物多様性第4弾として「愛知ターゲット」をまとめた当事国日本はこれにどう取り組んでいくのか、それは企業活動にどのような影響を与えるのか等について考えてみることとします。