連載(3) 環境側面とは

2004/07/15Intertek News(5号)

環境主任審査員 郷古 宣昭 Nobuaki Goko

 前回はISO14001は「環境経営」とは環境保全活動と収益の向上とを同軸で実現させることであること、その実現のためには本業で省資源、省エネルギーに取り組む必要があることを述べました。今後は環境マネジメントシステムの要素について順次解説することとし、今回は、EMS構築上最も大事な「環境側面」についてお話しします。

 環境側面とは、ISO14001の規格の定義によれば、「環境と相互に影響しうる組織の活動、製品またはサービスの要素」と説明されております。つまり、組織の活動や製品、提供するサービスの中で、良し悪しを問わず、環境影響を与える要因となるものが環境側面です。
 環境影響とは大気系・水系・土壌へ排出される有害な排ガス・排水や、騒音・振動・悪臭のような迷惑物などです。「有害」とはヒトに対してだけではなく、生物・植物などの生態系、時には景観や文化遺産等も考慮する必要があります。また、廃棄物のように処分の過程、あるいは処分そのものが自然に悪影響を与えるケースもあります。さらに、ある種の材料は資源の枯渇に繋がるものもあります。
 冷蔵庫の製造工場を例にとってみます。製造工程は、鋼板を切断し、折り曲げ、塗装して筺体を作る各工程、合成樹脂を成形して内装材をつくる工程、断熱用ウレタン発泡体を作る工程、冷凍機等電気設備や電気部品を組み込む工程、フロンガスを充填する工程などで構成されます。それぞれの工程を構成する設備及びその作業は環境影響の要因となるので環境側面になります。冷蔵庫そのものも製品を輸送する過程で輸送車による排気ガスを放出し、販売店で梱包が廃棄物になります。さらに、消費者の手に渡って使用され、電力を消費します。使用を終えた冷蔵庫の廃棄の際には、材料として6価クロム処理したネジや臭素系の難燃剤を含む樹脂が使われていると有害物が発生します。これらは全て環境側面になりえます。

 規格はこれらの「環境側面を特定し、著しい環境側面を決定する」ことを求めております。「特定する(identify)」とはゴチャゴチャある中で「これがそうである」と探しあてることを意味し、「決定する(determine)」とはあらかじめ定義された「著しい環境側面」の中身を決定することを意味します。組織は決定された著しい環境側面により、組織固有の環境上の「姿(aspects)」として、例えば、電力消費型であるとか、歩留まりロスによる廃棄物が多いとか、薬剤が排水溝から公共水路に流出するリスクがあるといったことを認識することが出来るわけです。

 著しい環境側面としてリストアップされたもののうち、削減ないしは向上するために取り組む事項は「目的・目標」として取り上げ、現状レベルで維持管理する項目は維持のために「監視・測定」に、汚染のリスクに関するものは「緊急事態への準備および対応」として取り上げ、活動計画の基礎とします。

 環境側面の特定は、法規制等の特定とともにマネジメントシステムを運用原理であるPDCAサイクル(計画→実施→確認→見直し)の「計画」を設定する元になる重要な作業です。規格は環境側面を特定し、著しい環境側面を決定する手順の確立を求めておりますが、これについては次回お話しします。