連載(30) 生物多様性(4)

2011/04/24Intertek News(32号)

環境主任審査員 郷古 宣昭 Nobuaki Goko

 名古屋で開催されたCOP10では、生物多様性の喪失を抑制するために「愛知目標」、生物資源の利益配分のために「名古屋議定書」、生物多様性に関する「政府間科学技術プラットホーム(IPBES)」の設置が合意されたことを述べました。
それでは、それらに対して企業はどのようにかかわっていけばよいのでしょうか?

1. 事業活動との関係を見直す/生態系サービスからの評価

 これまで多くの企業が生態系を破壊し、生物多様性を喪失させながら事業を営んできたことは事実であり、これに対して一部の企業はCSR(企業の社会的責任)の一環として事業活動の余力を社会活動に振り向けてきました。しかしながら、生物多様性の喪失速度はこのような活動で糊塗できるほど小さくはなく、そのリアクションや規制の強化は事業の継続にも影響するほど大きくなっていることを認識する必要があります。逆に、これらを早くから予測できればビジネスチャンスに結びつけることも可能かもしれません。

 企業が生態系からどのようなサービスの提供を受けているのか、その生態系が健全性を失うと企業にはどのようなリスクが生ずるのだろうか?

 このような問いに対して「持続可能な開発のための世界経済人会議(WBCSD)」が「世界資源研究所(WRI)」と共同でガイドライン「企業のための生態系サービス評価(ESR)」を2008年3月に発表しました。これは「影響評価」から「生態系サービスからの依存度」に視点を移すことによりビジネス上のリスクとチャンスを見極めることに力点があります。

 また、ISO14001を運用している事業者は環境影響評価を生態系の破壊、生物多様性の喪失の観点から的確に評価することが重要と考えます。特に、原材料がどこからどのようにして採取されたものかを明確にする必要があります。例えば、熱帯雨林からの伐採材や無計画に開発された農園から得たパーム油、その他乱獲・乱伐・乱開発品を無頓着に使用していると思わぬダメージを受けることになるでしょう。

2. 土地開発と代償ミティゲーションを考える

 最近の公共建設では山林・原野の開拓を伴う工事があると、工事区域内の動植物の調査と工事開始前に「動植物の引越し」を求められることが多くなりました。これは生物多様性の保全を配慮したものですが、工事が完成したら追い出された動植物の生息地が戻るわけではないので、十分な処置とはいえません。

 このような場合、欧米では「代償ミティゲーション」という生息地を代償する手法があります。これは開発などにおいて、回避しても、最小化してもどうしても最後まで残る負の影響に対して「汚染者負担の原則」に則って近隣に同等以上の容量を持つ生態系を復元・創造することであり、欧米の主要国で法制化されています。詳細は以下のURLを参照してください。
  http://www.yc.tcu.ac.jp/~tanaka-semi/

 日本では開発者の負担が大きいため、必要な開発で生ずる生態系の喪失は破壊されたままでよしとしていますが、「代償ミティゲーション」の国際ルール化が検討されている今日、いつまでも通用する弁解ではないと思います。少なくとも、グローバルに展開しようとしている企業は積極的に取り入れるべきと考えます。

3. 里山・里海の役割を理解する/里山・里海プロジェクトに参加する
 日本が世界に誇る里山は「SATOYAMAイニシアティブ」として愛知目標に盛り込まれました。里山とは「人間の福利に資する生態系サービスを提供する管理された社会・生態学的システム」と定義されており、「管理されること」が重要です。今後、里海を含めた「里山・里海」の整備が進むことが予想されます。
 これについては、紙面の都合で割愛しますが、里山・里海の役割や変化、将来展望などを理解するために国連大学のJSSA(日本里山里海評価)報告を紹介します。
  https://ouik.unu.edu/wp-content/uploads/16853108_JSSA_SDM_Japanese.pdf

 次回は化学物質の管理についてお話しします。