連載(32) 化学物質(2)
2011/10/17Intertek News(34号)
環境主任審査員 郷古 宣昭 Nobuaki Goko
今回は化学物質の有害性について解説します。
1. 環境化学物質
環境に有害な影響をもたらすものと言うと、音、振動、光のようないわゆる迷惑物を除くとほとんど全ての分野で化学物質が関与しています。例えば次の例です。
- ①温室効果ガス:二酸化炭素、水蒸気、フロン、メタンなど分子内にエネルギーを貯えることができる物質です。フロンはその最たるもので二酸化炭素の千倍~1万倍の温室効果を有しています。
- ②オゾン層破壊物質:フロンに含まれる炭素一塩素結合が成層圏でオゾン分子を攻撃する反応を連鎖的に起こします。
- ③酸性化:工場や自動車から排出される化石燃料の排ガスに含まれるイオウ酸化物や窒素酸化物が酸性雨、土壌の酸性化、森林破壊をもたらします。
- ④光化学スモッグ:前述の窒素酸化物、工場やタンクから漏れた有機化合物、塗装工程で蒸散する溶剤が紫外線で励起されて生成する酸化性物質はヒトに有害です。
- ⑤水系、土壌系にあってヒトの健康や生物の生育に影響を与える汚染物。
2. ヒトに対する有害性
これらのうち、ヒトに有害な影響を与える性質を「毒性」と呼び吸入、経口、経皮の3つの暴露経路別に以下のように分類されます。
①死亡、②全身系(呼吸器、心臓血管、胃腸、血液、内分泌系、各種臓器で生じる有害影響)、③免疫系(*1)、④神経系、⑤生殖・発生系(受精、妊娠、分娩、子の成長に至る過程で生じる有害影響、⑥遺伝子毒性(*2)、⑦発がん性(*3)
- *1:免疫機能の障害として起こるアレルギー誘発性については「感作性」とも呼ばれる。
- *2:遺伝子毒性については「変異原性」とも呼ばれることもあり、発がん性や生殖毒性の可能性があるものとして管理される。
- *3:発がん性については国際がん研究機関(IARC)によって以下のようにランク付けされている。
- 1 :発がん性がある
- 2A:おそらく(probably)発がん性がある
- 2B:発がん性があるかもしれない(possibly)
- 3 :発がん性については分類できない
- 4 :おそらく(probably)発がん性がない
- 1~4のランクは発がん性の強さのランクではなく、発がん性の証拠の確かさを示します。
3. 許容量の決定
化学物質が体内に取り込まれる化学物質の量とヒトや実験動物での有害な影響の発生率の関係を図に示します。
急性毒性の場合、有害な影響の発生ゼロになる点を求めることが出来ます。これを「無影響量(NOEL)」と呼び、それ以下の濃度であれば影響はありません。これに対して、発がん性が認められる場合、無影響量は存在しないので 用量ゼロ(発生確率ゼロ)点に外挿して、許容可能な発生確率に対する用量を推定します。通常10万人に1人が生涯を通してがんにかかる確率で設定します。この場合の用量は蓄積量を意味します。
このように発がん性については特別の取扱いを行うわけですが、最近「アレルギー誘発性」など発がん性以外でも「無影響量は存在しない、微量でも蓄積量を下げるべきである」とする考え方も出ています。
次回はダイオキシンと環境ホルモンについて説明します。