連載(35) CSRの新潮流
2012/07/16Intertek News(37号)
環境主任審査員 郷古 宣昭 Nobuaki Goko
いよいよ震災の復興が本格化します。多くの企業が被災地に入り込むことになり、CSR(企業の社会的責任)の実践を問われることになります。また、これを機に海外進出を決めた企業も少なくないと思います。彼らは更に強くCSRを意識せざるを得ないでしょう。この10年間でCSRがどのように変わったか簡単な解説を試みることとします。
1. 2000年頃のCSR
この頃CSRがブームになり、多くの企業がCSRに取り組みましたが、その考え方はそれぞれの政治的・社会的な背景を反映して、違いがありました。
欧州ではEUの統合で東欧から流入する労働者の雇用に悩んでいた時期であり、欧州委員会は企業に対して、その業務運営に社会・環境事項を自主的に取り入れることを要求しました。米国では投資家の力が強く、社会的貢献企業と貢献しない企業を選別して投資する運動に発展しました。
日本では企業の不祥事が続いたため法順守(コンプライアンス)と寄付活動・ボランティア活動がCSR活動とされました。
2. 人権問題のうねり
グローバリズムの進展とともに世界各地で人権問題が頻発しました。国連のアナン事務総長は自ら「グローバルコンパクト」を発表して、企業に対して「人権と労働の基本原則の順守、環境問題へのアプローチ、腐敗の防止」を呼びかけました。また、ジョン・ラギーを「企業と人権に関する国連事務総長特別代表」に任命しました。ラギーはこれを受けて、「ラギーレポート」提出しました。この中で、「国家は人権を保護する責任」があり、「企業は人権を尊重する責任」があり、人権問題が起きた時の「救済方法」を全体像で示しました。これにより企業のCSR活動はどこに位置づけられるのかを明示し、国家・国際社会が企業に対して人権尊重の履行を求め、介入する責任を課すと同時に具体的な対応策を提示したと言えます。
3. ISO26000 (2010年11月1日発行) のインパクト
CSRに関する手引きとして、99カ国、470人のエキスパートを集めて5年がかりで完成しました。この中で、社会的責任の中核となる7つの主題が以下のように決定されています。
- ⅰ 組織統合
- ⅱ 人権
- ⅲ 労働慣行
- ⅳ 環境
- ⅴ 公正な事業慣行
- ⅵ 消費者課題
- ⅶ コミュニティー参画および開発
これらをどのように実行するのでしょうか。例えば「人権」については、ラギーレポートの主張が色濃く反映され、多くの場合、労働問題、差別問題と結びつけて、次のように説明しています。
- イ) 問題発生を未然に防ぐために調査し、注意を払いなさい。
- ロ) 問題に加担することになる事態を回避しなさい。
- ハ) 差別を廃して社会的弱者をいたわりなさい。
- ニ) 労働における基本的原則および権利を守りなさい、等々。
4. ステークホルダー・エンゲージメント
CSRを進めるうえで前提となるのは、利害関係者(ステークホルダー)とのパートナーシップを進めることです。このことは問題解決まで付き合うこと、成果を明確にすることを意味しています。
ところで、以下のような式が提案されています。
政治の及ばない部分を補完するという意味です。途上国でも、被災地でも様々な問題を抱えています。事業活動以外のことでも、進んで解決する姿勢が必要と思います。
CSRの新潮流は世界の企業観を「私的所有物」から「社会の公器」への変化を促すものとして大きな影響を与えるものと思われます。
次回は、様々なリスク管理について考えてみます。