連載(36) 紛争鉱物

2012/10/15Intertek News(38号)

環境主任審査員 郷古 宣昭 Nobuaki Goko

 前回はCSRの新潮流について概説しましたが、紙面の都合上広範な内容を短く要約したためわかりづらい部分があったかもしれません。今回は「リスクマネジメント」を取り上げる予定でしたが、予定を変更してCSRについて具体的な例で説明し、理解を深めることとします。

 「紛争鉱物(Conflict minerals)」 とはアフリカ等の紛争地帯で採掘された鉱物資源を示します。このような地域では鉱物資源が紛争当事者の重要な資金源となって紛争を長引かせているのみならず、子供がさらわれて少年兵として前線に送り込まれたり、劣悪な労働環境の下で強制労働を強いられていて、人身売買や賄賂、密輸も日常的に行われているそうです。これらの地域の多くが生態系に深刻な被害を受けています。金の鉱石1トンから採取できる金は1.5gに過ぎず、残りは廃棄物として河川に排出され、しかも猛毒の青酸を発生させるシアン化ソーダが使用されています。(これらの人権問題、環境問題については資源ジャーナリスト谷口正次氏の著書に詳しく記されていますし、レオナルド・ディカプリオ主演の映画「ブラッド・ダイヤモンド」でも垣間見ることが出来ます。)

 このような状況に対してSRI(社会的責任投資)を発展させた米国の投資家たちが動き、2010年7月に「米国金融改革法」を成立させました。これにより、自社製品に紛争鉱物を使用している製造業者は鉱物の原産地を開示する義務を負うことになります。この法による当面の対象鉱物はコンゴ民主共和国及びその隣接国から産出される金、スズ、タングステン、タンタルであり、これにコバルトが追加される可能性があります。ただし、「紛争鉱物」はコンゴ民主共和国で産出される鉱物に限ったことではなく、ザンビア、ジンバブエ、ニジェール、ギニア、インドネシア、オーストラリア、フィリピン、パプアニューギニア、ブーゲンビル、グアテマラ、コロンビアなどで産出される鉱物にも、地域紛争・部族紛争と絡んで様々な人権問題が発生しているといわれています。

 上記の金属は携帯電話、パソコン、航空機器などハイテク分野をはじめ、装身具にも使用されています。CSR規格ISO26000はサプライチェーン管理を通して原材料を調査することを求めており、製品に使用している鉱物の原産国、必要により、採掘鉱山まで調べる必要があります。また、ISO26000は中核課題として人権、環境、労働を取り上げています。原材料鉱物が国際行動規範に合致しない鉱山で採掘された鉱物であること、即ち、人格、環境、労働に問題があることが判明しているにも拘らず、何も対応しない場合、組織は不法行為や非人道的行為に間接的に加担していると見なされます。

 アナン元国連事務総長の「グローバル・コンパクト」の10原則は、外資による資源開発で行われた非人道的、環境破壊的なことの改善を促すために発意したものと言われていますが、今では、人権や環境に関して最も基本的な国際行動規範として定着しています。