連載(37) コミュニティへの参画

2013/01/15Intertek News(39号)

環境主任審査員 郷古 宣昭 Nobuaki Goko

 前回は「紛争鉱物」を採り上げ、サプライチェーンを通して原材料の素性を把握することの重要性を述べました。日本が大量に買い付けているサラワク(インドネシア)産の違法伐採木材、学童労働が問われているウズベキスタンの綿など、知らず識らずのうちに人権や環境問題に加担している例が少なくないのです。これらについては機会があったら述べることにしますが、今回はCSRを実践する際に最も重要な「コミュニティへの参画」について説明します。

 「コミュニティ」とは企業が活動する場である地域を言います。その地域が豊かな地域であれ、貧しい地域であれ、その地域の社会的、歴史的、経済的及び文化的特性を重んじつつ、地域の未来に影響力を及ぼし、その発展に努めることが求められます。特に、途上国にあっては国連のミレニアム開発目標(MDGs)を避けて通ることは出来ません。これは、2015年までに達成すべき課題として国連はあらゆる組織の参加を呼びかけています。(付表参照)

 10年前はこのようなプロジェクトは企業の収益の一部を寄付することによって行えば良しとしていましたが、昨今のCSRの考え方では「参画し、共に解決する」ことが求められます。最近、CSR Asiaのフォーラムで聞いた話です。

  • ・日本の某社の例(CSR報告書):
    ○○国で社員ボランティアが苗木を△本植えました。「植えた木が育つ日が楽しみです」とありました。実は乾燥地に植林しても無事育つ確率は非常に少ないのです。
  • ・キャドバリー社(英)の例:
    ガーナに井戸を316本掘りました。その結果、6380人の女性が水汲み労働から解放され、1日に延べ165時間分の節約になりました。彼女らには工場での働き口を斡旋中であり、仮に50%が働きに出ると70万ドルの地域収入が増えます。

 このように地域に密着して社会問題を解決し、地域の発展に寄与することをISO26000では「コミュニティへの参画、コミュニティの発展」として最重要事項に取り上げています。また、その実現のために「ステークホルダーエンゲージメント」の導入を奨めています。「ステークホルダー」とは地域住民、地域の団体・NPOであり、彼らとの関係構築を求めています。このことは、途上国での事業に限らず、国内で復興事業を進めるうえでも必要なことであり、今日では「持続可能な発展」への必須要件であると思われます。
 
 次回はCSR新潮流の影響について考えます。