連載(38) 違法木材とレーシー法
2013/04/15Intertek News(40号)
環境主任審査員 郷古 宣昭 Nobuaki Goko
今回はCSRの新潮流の最終編として「新CSRの影響」を予告していましたが「違法木材」問題が切迫しているのでこれを先に解説することにします。
1. 森林の減少とその影響
森林は地球上の全陸地面積の約30%を占めていて、多様な生態系と生命を育んでいます。しかし、近年、この森林が激減していて、新たに生成する分を考慮しても730万ha、およそ北海道の面積に相当する森林が毎年減少しているそうです。主な原因は①農地への転用、②燃料への転用、③回復力を無視した焼畑農業、④森林火災、⑤違法伐採です。
その影響は気候変動をもたらし、生物多様性を損なわせ、土砂流出や洪水等の災害を誘発し、食物や薬物資源を減少させます。人類の存続をも危うくする可能性があると言っても過言ではないのです。
2. 世界最大の木材製品輸入国日本
日本は土木建築・家具・紙の原材料として、木材製品を丸太・製材・合板・チップ・パルプ・家具材の形で世界中から集めている世界最大級の木材消費国であり、その76%を輸入に頼っています。そして輸入品の約1-2割が違法木材と言われています。「違法木材」とはそれぞれの国の法律に反して行われる伐採木材製品であって以下のようなものを言います。
- ①森林計画で規定外の量、樹種、サイズ、方法による伐採品。
- ②保護地域からの伐採品、盗伐されたもの。
- ③先住民の伝統的な権利を無視した伐採、労働安全・税務上の問題ある伐採。
日本でよく目にする「ラワン材」は絶滅危惧種であり、マレーシアのサラワク州で行われている大規模産業植林開発事業では椰子油工業のためのパームの木を植えるために大量の天然材が伐採されて日本に流れこんでいるそうです。
3. レーシー法とその影響
米国において野生動物に関する犯罪の取締のツールとして100年の実績を持つレーシー法が2008年に改正され、植物にも拡大されました。これにより木材製品取引について以下の規制が掛けられるようになりました。
- ①原産地の法に違反して伐採された木材製品の取引の禁止。
- ②木材製品輸入業者及びそれを使用する業者に課されるデューディリジェンス義務。デューディリジェンスとは実行に先んじて当然行うべき調査を行い、リスクを評価し、リスク低減措置を取ることを言います。
- ③輸入した木材の原産国と樹種(学名)の報告。
この法律改正は、安価な違法木材製品の流入で混乱した市場を安定させるものとして欧米の業界団体の強い支持を受けました。
そして、同じ趣旨の法「EU木材法」が2010年に成立し、オーストラリアもこれに続きました。遅れている日本は木工製品、紙製品を欧米市場に出しにくくなるだけでなく、「熱帯雨林の破壊に加担している」として非難を受けることになるかもしれません。
4. 合法性の証明
レーシー法では現地の政府や監督機関が発行する許可等の文書は認めず、あくまで「事実に基づいた調査・証明」を求めています。文書を認めない理由は違法伐採が行われる地域はしばしば収賄や偽装、時には組織犯罪に関係する可能性があるためです。そして「事実に基づいた調査・証明」は以下の2つの事項について行われます。
- ①持続可能な森林経営が行われている森林であることの証明。
- ②上記森林から伐採された木材・木材製品を長いサプライチェーンの全ての工程で分別管理することにより消費者が選択的にこれらを購入することが出来ることの証明。
日本の林野庁のガイドラインでは①については森林認証制度、②についてはCoC(管理の連鎖)認証制度の活用を奨励しており、具体的には第3者認証制度としてFSC®(森林管理協議会)、PEFC(森林認証プログラム)、SGEC(緑の循環認証会議)を提示しています。
木工製品・紙製品(包装材を除く)を欧米に輸出している組織は、取扱っている製品は違法木材由来でないことを早めに確認することをお奨めします。
なお、MICは、2012年夏より FSC® CoC 森林認証サービスを開始しています。ご興味がございましたら、東京事務所マーケティング部までお問合せください。