連載(39) 新CSRの影響/ISO26000

2013/07/15Intertek News(41号)

環境主任審査員 郷古 宣昭 Nobuaki Goko

 過去4回にわたって、CSR(企業の社会的責任)の新しい潮流について概説してきましたが、今回はその総集編です。

1. これまでの説明(記事)概要
 情報誌vol.37では「CSRの新潮流」の要点を説明し、環境に関連が深い喫緊の問題として「紛争鉱物」(vol.38)、「違法木材」(vol.40)を採り上げました。他に、ウズベキスタンの綿花やガーナのカカオも問題になっていて、環境だけでなく児童労働、強制労働などの人権・労働問題を伴う傾向があります。世界の児童労働の状況については、NGO ACEのホームページに詳しく出ています。( http://acejapan.org
 人権問題についてはラギーレポートが知られており、vol.37「CSRの新潮流」で紹介していますが、国家に人権保護のための介入、企業に人権尊重を基軸とした経営戦略の表明を促したこと、被害者の救済方法を具体的に示したことで画期的な意義を持つもので、これはそのまま国連のビジネスと人権に関する指導原則「『保護、尊重及び救済』枠組み」として発表され、ISO26000にも反映されています。これは「一般財団法人アジア・太平洋人権情報センター」からダウンロードできます。( http://www.hurights.or.jp
 ISO26000についてもvol.37「CSRの新潮流」に記載しておりますが、社会的責任実践の手引書として2010年11月に発行されました。ISO26000の包括的目標は「持続可能な発展」であり、取り組むべき中核課題として ①組織統治、②人権、③労働慣行、④環境、⑤公正な事業慣行、⑥消費者課題、⑦コミュニティ参画及び開発です。それらの実行に当たっては7つの原則(ⅰ説明責任、ⅱ透明性、ⅲ倫理的な行動、ⅳステークホルダーの利害の尊重、ⅴ法の支配の尊重、ⅵ国際行動規範の尊重、ⅶ人権の尊重)に従い、中核課題ごとに提示された課題を実行するわけです。この中でしばしば疎かになりがちなのがコミュニティへの参画、ステークホルダーの利害の尊重で、これについてはvol.39「コミュニティへの参画」で述べているように地域住民や地域のNPOと関係を構築しながら取りすすめ、効果の確認まできっちり実施することが重要です。
2. ISO26000の展開

 ISO26000は認証取得を目的とするものではなく、CSR実践の指針ですが、多くの国で支持され、国際行動規範として定着しつつあるように思います。つまり、好むと好まざるにかかわらず、その組織の行動がISO26000を基準に評価されることを意味しています。実際に、海外展開している企業はISO26000をベースに社内教育を始めていますし、CSR報告書を発行している企業はISO26000を基準に見直しをかけているところが多いようです。
 取り組みテーマの中心はやはり環境、労働、人権であり、自社の活動においてはこれらの問題を発生させないことは勿論のこと、従業員や地域の問題に関与すること、供給者に対してはサプライチェーン管理に基づくリスク評価による問題の回避が求められます。また、それらの実行には世界人権宣言や国連子どもの権利条約、ILO条約等、国際規範が判断基準になります。
 また、これらは海外進出企業だけでなく国内で活動している企業にも適用されます。某損害保険会社の問題企業リストには日本の企業の名も挙がっており、その多くは原材料を通しての人権問題であるとのことです。震災被災地での労働問題や高齢避難者への対応等に付いても問題になっているとのことです。

 CSRの新潮流は世界の企業観を「私的所有」から「社会の公器」への変化を促すものであり、ISO26000はそのツールとして大きな役割を果たすことが期待されます。