連載(40) 京都議定書の行方

2013/10/15Intertek News(42号)

環境主任審査員 郷古 宣昭 Nobuaki Goko

 今年の猛暑はかつて経験したレベルを超えていて、同時に発生している記録破りの豪雨は各地に洪水と斜面の崩壊をもたらしています。そんな中で米国海洋大気局はハワイのマウナロア観測所の二酸化炭素濃度がついに400ppmを記録したことを伝えています。温暖化の影響は一刻も猶予が出来ない状況なのに、二酸化炭素を削減する国際協定はどうなっているのでしょうか、京都議定書を例にその成り行きをまとめてみました。

1. 京都議定書とは何か

 1997年に京都で開催されたCOP3(第3回気候変動枠組条約締約国会議)では先進国に二酸化炭素などの温室効果ガスの削減を義務付けた京都議定書が採択され、この中では第1約束期間(2008年-2012年)に温室効果ガスの排出を先進国全体で90年比5%の削減を義務付けました。これは、EU8%、米国7%、日本6%のように割り当てられましたが、米国が「国益に合わぬ」という理由で早々に離脱しており、多量排出国である中国・インドは途上国として元々義務を負っていないため、その効果は限定的なものでしかありません。しかしながら、各国が自国のエゴを捨てて次世代のために取り組む第1歩の意味は大きいと思われます。

2. コペンハーゲンの合意
 潮目が変わったのは2009年コペンハーゲンで開催されたCOP15であり、IPCC(気候変動に関する政府間パネル)の科学知見を踏まえ、「“世界の気温上昇が2℃を下回るべき”と認識し、世界の排出量を大幅に削減する必要があること、そのために、①先進国は2020年に野心的目標を実行すること、②途上国も削減行動を取り、その結果を測定し、記録し、報告すべきであること」に合意しました。合意とは法的強制力を持つ「協定」には至らなかったことを意味します。
3. カンクン合意およびその実践

 2010年のメキシコのカンクンで開催されたCOP16ではコペンハーゲンの合意を受けて、これに測定・記録・検証の方法などを加え、取り組み促進のための作業部会の設立が合意されました。カンクン合意と呼ばれていますがコペンハーゲン合意を明確にして、若干発展させたものです。
 これらは、2011年のCOP17(ダーバン会議)、2012年のCOP18(ドーハ会議)を経て以下のように決定されました。

  • ①京都議定書は第2約束期間を2013年より5年間または8年間に設定し、各国は削減目標を提出すること。
  • ②気候変動枠組条約の全ての締約国が参加する枠組みを2020年にスタートする。その法的文書の検討テキストを2015年までに作成すること。

上記②のために各国から自主的に決定して提出された2020年目標は付表のとおりです。これらは確定数値ではなく、今後、数値の検証と野心的引き上げが検討される予定です。

4. 今後の成り行きと対応

 これまで消極的だった米国は、国内の全ての火力発電所に新たな二酸化炭素排出規制を導入して原料転換を促進する一方、再生可能エネルギーを倍増する計画を進めており、国外では中国、インドと提携して国際制度作りに積極的に関与する動きを進めています。
 日本は、京都議定書に米国や途上国が参加しないのは不公平だとしてCOP17で離脱を表明しており、第2約束期間にも参加しません。2020年からの新たな枠組みについては鳩山元首相が表明した「2020年に90年比25%削減」が国際公約として生きていますが、安倍首相は撤回・見直しを宣言しています。
 日本は2020年まで何をするのか、京都メカニズムを使えないことで省エネ技術の海外展開が滞らないのか、国際交渉の場から置き去りにならないのか、懸念されます。