連載(44) 第5次IPCC報告
2014/10/15Intertek News(46号)
環境主任審査員 郷古 宣昭 Nobuaki Goko
IPCC(国連気候変動政府間パネル)は世界気象機関と国連環境計画によって1988年に設立された国連組織で、その報告書は気候変動に関わる最先端の知見をその信頼度の評価も付けてまとめたものです。第5次では800人以上の科学者が約4年間の歳月をかけて作成しています。
報告書は2013年9月の第1作業部会の「科学的根拠」以来、第2作業部会の「影響・適応・脆弱性」、第3部会の「緩和策」が相次いで発表され、2014年10月には「統合報告」が発表される予定です。これまでの3つの報告について、そのポイントを簡単にまとめてみました。
(1) 温暖化は主に化石燃料の使用が原因である可能性が「極めて高く」、特に石炭の責任が大きい。
可能性が3次報告の「高い(確率60%以上)」、4次報告の「非常に高い(確率90%以上)」から今回は「極めて高い(95%以上)」と信頼性を上げていることが注目されます。
(2)このまま何も対策を取らないと100年後には4℃前後の気温上昇が予想される。
(3) 気温上昇を2℃未満に抑えても影響は甚大であり、「適応」が必要。4℃上昇すると適応不可能な影響も予想される。
ここで「適応」とは、例えば洪水対策とか農作物の品種改良など温暖化の影響に備えることを言います。温暖化の影響は既に顕在化していて、1℃の上昇でも熱波や大雨・洪水のリスクが高くなり、2℃上昇では北極の氷やサンゴ礁など脆弱なシステムは甚大な危険に曝されます。3℃以上ではグリーンランドの氷床が解け始め、7mの海面水位上昇に向けて徐々に全世界に影響を与え始めます。4℃以上では穀物収穫量や漁獲量の落ち込みは顕著になり、人の移動や水を巡る紛争の頻発で国の安全保障問題に発展するリスクがあると警告しています。総じて2℃以内であれば適応策の実施で悪影響は4分の1程度に抑えられるが、4℃では適応が困難になることを示しています。
(4) 2℃未満に抑える道は残されているが2050年に世界のGHGの排出を40~70%削減する必要があり、2100年には排出をゼロかマイナスにする必要がある。
このままのGHG排出が続くと、後30年で気温上昇2℃のために許容される限界排出枠を超えてしまうことも示されている。
報告では温暖化問題はエネルギー問題であり、温暖化を抑制するためにはエネルギーの根本的変革及びGHG抑制策と国際協力が不可欠であると結論しています。また、これまで取り組んできた京都議定書、排出権取引、環境税等の諸施策に対しても一定の評価を与えていて、新たな国際協力を促しているようにも読み取れます。
その国際協力の現状はどうなのか、COP19(第19回気候変動枠組条約締約国会議:ワルシャワ会議)の成果を含め、次回解説します。