連載(48) ウォーター・フットプリント(1)

2015/10/15Intertek News(50号)

環境主任審査員 郷古 宣昭 Nobuaki Goko

 水資源問題についてはこの季刊誌の vol.24 に、地球上で利用可能な水は地下水、湖沼、河川に蓄えられた水0.76%に過ぎないこと、日本は恵まれた水の国だが食糧として海外から輸入する穀物や食肉の生産に使用された水を間接的に消費していることになり(仮想水)、その量は日本人の生活用水の3.7億人分に相当することを述べています。

 水資源を取り巻く状況について、昨年発表された第5次IPCC(国連気候変動政府間パネル)報告では21世紀を通して乾燥した亜熱帯のほとんどの地域で表流水と地下水が減少することを予測しています。また、すでに70億人を超えた世界の人口は2050年には90億人を突破すると予想され、それに伴い増大する食糧需要を満たすための灌漑用水や都市に集中する人々の生活用水、まだ成長途上にある新興国の工業用水など、世界の水需要は増大傾向にあることが予想されます。日本の食糧自給率はカロリーベースで39%(2013年度)と改善の傾向はなく、仮想水の消費状況は変わりません。

 このような状況下で、自社の製品・商品について、水の使用量の履歴を原材料に遡って調査し、製品・商品に表示する動きがあります。これをウォーター・フットプリントと呼びます。二酸化炭素排出量の履歴を示すカーボン・フットプリントに倣って、消費者の商品選択の基準の一つとして位置付ける意図で欧州では商品・製品への表示義務が検討されています。

 付表1はエコプロダクツ展で発表されたネスレ社のコーヒーカップ1杯当たりの工程別水使用の例です。付表2は欧州のNPO「ウォーター・フットプリント・ネットワーク」が試算した標準的なデータです。

 一般に農産物を主原料とする製品は原材料の栽培工程が圧倒的に大きくなりますが、ネスレ社の例は原料豆の品種改良、栽培法の開発、加工工程の合理化に取り組んだ成功例を示しています。

 このように、「ウォーター・フットプリント」は「カーボン・フットプリント」と並んで、地球環境に対する企業の姿勢を示すものであると同時に世界の水資源問題に関する解決の糸口を提供する手段でもあります。では、「ウォーター・フットプリント」で何がわかるのか、次の機会に説明することとします。