連載(49) ウォーター・フットプリント(2)
2016/01/15Intertek News(51号)
環境主任審査員 郷古 宣昭 Nobuaki Goko
1. 仮想水について(前回の要約を兼ねて)
ウォーター・フットプリントは水利用に関する潜在的な環境影響を原材料の栽培、製造加工、輸送・流通、消費、廃棄・リサイクルまでのライフサイクル全体で定量的に評価する手法であることを前回述べました。
私たちは海外からの食糧や身の回りの製品を通して、間接的に水を消費しているわけですが、その量は米国から389億㌧、オーストラリアから89億㌧、カナダから49億㌧、中国から22億㌧など計640億㌧もの水を間接的に輸入していることになります。前回示した牛肉の仮想水が大きい(1kg当たり15.5㌧)のは牛肉飼育に必要な穀物栽培に多量の水を使用するためです。また、綿シャツ1枚の仮想水が大きい(1枚につき水2.7㌧)のは綿花栽培に多量の水を使用するためです。国を挙げて綿花栽培に勤しんでいるウズベキスタンではアラル海が干上がってしまったことはよく知られています。仮想水の輸入元である上記の国々は皆「水ストレス」(取水量÷自然供給水量)の高い国々であり、このことは日本が世界の水需給に悪影響を与えていると言えるでしょう。
ところで、水の使用による影響は水資源の枯渇リスクだけではありません。工場等で使用後、水源に戻した水の「水質汚染」も問題になり、戻した水のCOD(化学的酸素要求量:水質指標の一つ)、全チッソ、全リン、有害物質の濃度如何で様々な影響が出てきます。
2. ISO14046:2014について
昨年、ウォーター・フットプリントの規格が発行されました。LCA(ライフサイクルアセスメント)ISO14040シリーズの一部として登録されました。付図にウォーター・フットプリントの評価の流れを示しています。「水資源の枯渇」や「人の健康への影響」、「生態系への影響」等影響領域を選択すること、測定データの段階での分析と影響評価、結果の解釈を明確に分けていることが特徴です。結局、選択した影響分野ごとの影響評価と影響分野の統合判断が可能です。
一方、欧州のNPOであるウォーター・フットプリント・ネットワークは汚れた排水を水源に戻した場合は、原水の基準値に戻すための希釈水を計算し、これをグレーウォーターと名付け、水消費に加算することを提案しています。
3. ウォーター・フットプリントの活用
ISO14046:2014の序文にウォーター・フットプリントの活用法が詳しく記載されています。要は、「水資源に関する潜在的な環境影響を事前評価することにより、水利用に関するリスクマネジメントを実施し、水利用の効率促進を図る」ということでしょう。水消費の立場からはウォーター・フットプリントを意識するとともに、世界的に起こるだろう水不足を緩和するために、節水活動を、特に食糧を通して実施していく必要があると考えます。
次回はCOP21パリ会議の結果について報告し、解説する予定です。