連載(5) 著しい環境側面を決定する
2005/01/17Intertek News(7号)
環境主任審査員 郷古 宣昭 Nobuaki Goko
前回は「環境側面」の洗い出しについて話しました。今回はそれら環境側面群中から重要度評価をする、「著しい環境側面」の決定法についてお話します。
実は、著しい環境側面の決定方法について、規格は何も規定していません。それゆえ、その組織に相応しい方法を用いればよいのですが、なぜか多くの組織は版で押したように同じような手法を採っており、それがあまりうまくいってないようですので、あえて解説します。
洗い出した環境側面ごとにその影響を与える対象を特定します。多くの場合、大気、水質、土壌など典型7公害に分類しています。これは間違いではないですが、環境影響ですので、「地球温暖化」「オゾン層破壊」「酸性雨」「生態系破壊」「ヒトの健康」「快適性」「廃棄物」などとする方がよく、分類すること自体、環境側面と環境影響の関連を理解する上で好ましいことです。
次にスコア(点数付け)ですが、これは大変難しく、問題の多いところです。そもそも、影響を及ぼす対象(標的)によって異なるものであり、厳密な定量化を目指すなら、地球温暖化であれば二酸化炭素排出量に換算し、オゾン層破壊であれば代表的な代替フロンに換算し、酸性雨であれば二酸化イオウに換算し、ヒトの健康であれば化学物質ごとに毒性因子を乗ずる必要があります。しかしながら、これらの計算は簡単ではありませんし、用いるデータベースでも異なります。それゆえ、法律や利害関係者の関心を考慮し、他の組織と比較して、3-5段階ぐらいで評価してよしとされます。ただし、地球温暖化については昨今の関心事ではあるので、ガス・電気・石油類を通して二酸化炭素換算することは意味があるでしょう。これらの換算係数は環境省のエコアクションプログラムや環境家計簿ガイドの中で公表されています。
さて、そのスコアの評価法としてよく見られるのが、「起こりうる可能性」に「検出の可能性」を加え、「結果の重大性」を乗ずるというやり方です。この方法は品質管理で行われている「故障モード解析」を真似たもので、将来起こるかもしれない環境事故を視野に入れたものとして意味があります。問題はこれが環境汚染に関する環境側面にしか適用できないにもかかわらず、資源の消費や間接側面にも適用して混沌を招いていることです。資源の消費は使用量と枯渇度、間接側面は影響の大きさ自体を考慮して環境汚染とは別個に評価すべきでしょう。また、「検出の可能性」は「管理の状態」と捉え、本来取り上げられるべき著しい環境側面が評価の過程でふるい落とされてしまった例を数多く見てきております。たとえ、管理の状態が良好であても、作業のミスや、設備の故障、停電や地震などで重大な汚染事故を起こすこともあり、リスク把握を見落とす恐れが出てきます。私は単純に「起こりうる可能性」と「結果の重大性」だけで十分であると思います。さらに、「法規制」「方針」「過去の事例」は「結果の重大性」や「起こりうる可能性」を評価する際には参考とすべき事項ではありますが、これらを無理に点数化し、複雑な算定式を組み立てることは避けるべきです。
このようにして決定された著しい環境側面はその組織の環境上の姿を示すものですので、文書化され、組織の全員に認識され、組織の内外で状況変化が生じたら見直されていくべきものです。また、著しい環境側面として決定された事項の全ては、目的・目標、運用管理(監視)事項、あるいは緊急事態の形でマネジメントシステムの中で取り組まれることが望まれます。
次回は、ISO14001:2004年版の改定の骨子を解説します。