連載(51) ESG投資の動向
2016/07/15Intertek News(53号)
環境主任審査員 郷古 宣昭 Nobuaki Goko
近年、日本企業のCSR(社会的責任)活動を取り巻く状況が大きく変わりつつあります。すべての企業はそれを認識し、自社の中長期戦略に反映させる必要があります。
1. 国連責任投資原則
国連環境計画(UNEP)の金融イニシアティブと国連グローバル・コンパクトは共同で「国連責任投資原則」を発表しました。その中で、機関投資家は「もの言う株主」として投資先に対してESG(環境・社会的責任・企業統治)課題の実践を促す働きかけを行うことを投資家自ら宣言しています。具体的には、付表に示す6項目のコミットメントが記載されていて、これに賛同する機関投資家の署名を求めています。2014年11月に欧州連合が会計指令を改訂し、環境・労働・人権・腐敗防止に関して開示を義務化したことも後押しして署名機関は徐々に増え、2015年末時点で1400件を超えています。
2. 日本版スチュワードシップ
一方、2014年2月には日本の金融庁も「日本版スチュワードシップ・コード」を発表し、機関投資家に「スチュワードシップ責任を果たすための明確な方針を持つべきである」等、機関投資家のあるべき姿を示しています。スチュワードとは執事や財産管理人を意味していますが、スチュワードシップはキリスト教に由来し、「神から委ねられた恵みを責任を持って管理する」という考え方があります。スチュワードシップ・コードの原則に、投資先企業の状況を把握する内容として、「環境・社会・企業統治課題を含むリスク」が記載されていますが、上記の国連責任投資原則のようなコミットメントはなく、ガイドラインに留まっています。国連責任投資原則に署名した日本の投資機関は37件だけですが、日本版スチュワードシップ・コードへの署名機関は200件を超えています。
3. 日本の年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)のインパクト
世界最大の運用資産(140兆円)を有する日本の年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)が2015年9月に国連責任投資原則に署名しました。運用資産は共済組合基金を含めると、200兆円に達し、その25%(50兆円)が国内株式の投資に回ることになります。この金額の全額ではないにしても、巨額な資金が、持続可能な社会の実現に不可欠なESG課題に取り組む企業に選別投入され、それらの企業の長期的な価値創造に向けて機関投資家の関与が入ることになります。影響は大きいと言わざるを得ません。冒頭に述べたように、すべての企業は自社の長期戦略及び自社のESG課題に対する取り組みを見直すことが重要と思います。
次回は、ESG課題の具体例に言及するとともに、これと関連がある財務/非財務統合報告の動向について解説します。