連載(63) COP24/IPCC1.5℃特別報告

2019/07/23Intertek News(65号)

環境主任審査員 郷古 宣昭 Nobuaki Goko

 2018年12月2日から15日にかけて、ポーランドのカトヴィツェで第24回気候変動枠組条約締約国会議(COP24)が開催されました。主要議題は3年前のCOP21で締結したパリ協定の実施に必要な指針の策定です。この会議に先立ち2018年10月に「IPCC(気候変動に関する政府間パネル)1.5℃特別報告」が発表されました。

1. IPCC1.5℃特別報告
 パリ協定では産業革命前と比べて気温上昇を2℃未満に抑えることを長期目標としましたが、温暖化の影響に弱い島国の悲痛な叫びを無視できず、気温上昇を1.5℃に抑えることも努力目標として付記されました。しかし、それまで検討されたシナリオは気温上昇2℃以上であったため、1.5℃の気温上昇で予想される環境状態が改めて検討され、「特別報告」として発表されました。その内容をごく簡単にまとめると以下の通りです。

  • ①世界の平均気温は産業革命前と比べて、現時点で既に1.0℃上昇していて、このままのペースで気温上昇が続くと2040年頃には1.5℃上昇に達する。
  • ②気候変動による悪影響のリスクは1.5℃温暖化した世界では顕著に大きくなり、2℃温暖化すると更に大きくなる。
  • ③温暖化を2℃で止めるためには、2075年頃には世界全体のCO2排出量を正味ゼロにする必要があるのに対し、1.5℃で止めるためには2050年頃に正味ゼロにする必要がある。

COP24では「1.5℃特別報告書」の位置付けを巡って紛糾したものの、最終的には報告書作成に対する謝意に留まりました。しかし、1.5℃特別報告書を受けて複数の国が目標値の引上げに向けて動き出す契機となりました。
2. COP24で決まったこと
  • ①パリ協定の実施指針が採択されました。
    全ての国が国別約束として温室効果ガスの排出削減目標と実行情報を提出し、他国の検証を受ける透明性の高い仕組みができました。測定・管理システムの貧弱な途上国については能力向上支援や柔軟性ルール(一時的に緩い方法)の適用を認めることで一国の漏れもないよう配慮しています。
    クリーン開発メカニズム(CDM)の指針策定については先送りになりました。
  • ②5年に1度の世界全体の進捗把握と各国の目標引き上げに関する指針や温暖化に対する適応報告の指針が策定されました。
  • ③現状の各国削減計画では2℃目標に届かないため、目標を引上げて2019年9月予定の国連主催の気候サミットで最終決定する計画です。
  • ④途上国支援については、支援の内容明確化の強い要求がありましたが、先進国の反対で否決され、COP21で決定した先進国による2020年以降の1000億ドルの拠出は進展がないまま先送りされました。
3. 非国家アクターの活動

 自治体、企業、研究機関、NPO等の非国家アクターの活動は今回も活発に行われました。特に目立ったのはアメリカの「WASI(We are still in:我々はパリ協定の中にいる)」という、州政府、都市、大学、企業等3750団体からなる組織で、様々なアピールで存在感を示していました。日本からは375団体(19.6.10時点)が登録しているJCI(日本気候変動イニシアティブ)が参加し、活動をアピールしていました。しかし、日本政府は石炭火力50基の建設プロジェクトを進めており、COP24でも各国のNPOからの批判に晒されました。

4. まとめ

 全世界の国々が集い、国々の利害を超えて解決に挑むのがパリ協定です。今、私達はそのスタートラインに立とうとしています。そのことを認識して何としても成功させねばなりません。

 次回は「プラスチックの海洋汚染」を取り上げます。