連載(64) 海洋プラスチック汚染(その1)

2019/10/18Intertek News(66号)

環境主任審査員 郷古 宣昭 Nobuaki Goko

 昨年から大きな話題になっている「海洋プラスチック汚染」とはどのような問題なのか、2回に分けて解説します。

1. プラスチック廃棄物

 プラスチックが身の周りに大量に出始めたのは1970年代後半で、今や全世界で年間3億トンを超えています。この間、プラスチック素材は天然素材にはない軽量性、衛生性、加工性、生産性を備えた素材として極めて利便性の高い製品を提供してきました。しかし、プラスチックはその優れた特性ゆえに、自然界に放りだされても自然に還ることができず、長く残存することになります。
 米カリフォルニア大学ガイヤー教授らの研究によると、2015年までに生産されたプラスチックの総量は83億トンでプラスチック廃棄物となった量は63億トン、その内12%が焼却され、9%がリサイクルされ、79%に相当する49億トンが埋立てや自然環境中に放出されているそうです。

2. 海洋を汚染するプラスチック

 海岸に漂着するレジ袋、ペットボトル、破損した漁具等は海岸の景観を損ね、沿岸に棲息する動物の誤飲死を誘発することが知られていますが、最近、問題とされているのは「マイクロプラスチック」と称されている微細な(0.5ミリ以下の)プラスチック破片です。それらは、有害な化学物質を吸着して北極、南極に至る広い海域に分散し、魚介類を含む様々な海洋動物に捕食されていることが報告されています。

 マイクロプラスチックは異なる起源ごとに分類されており、以下の4種が主なものです。
①プラスチック成型品の破片
②化学繊維の屑
③合成樹脂ペレット及びその破砕物
④樹脂微粒子が練り込まれた化粧品からの分離物

3. どこから出てきてどこへ行く

 米ジョージア大学のジャンベック博士らによるプラスチック廃棄物(以下「廃プラ」と略す)の国別流出量の推計値を付表に示しました。排出量上位国はアジア・アフリカ等廃棄物管理能力の高くない途上国で占められています。中国が突出して高いのは、2017年まで日本を始め世界各国から大量の廃プラをリサイクル資源として集めていたためと思われます。
 流出した廃プラは世界の五大亜熱帯還流に乗って拡散します。東南アジア・東アジアから流出した廃棄物は、黒潮に乗って北上し、日本近海を廃プラのホットスポットにしてしまいます。実際、東アジアの廃プラ濃度は世界平均の30倍が観察されています。また、マイクロプラスチックは海面近傍に限らず、中間深度にも存在し、さらには海底にも堆積していることが判明しています。2016年の世界経済フォーラムの報告書には「2050年迄に海洋中に存在するプラスチック量は重量ベースで魚の量を超える」との予測も紹介されています。

4. 海洋プラスチック汚染の国際動向

2016年6月「海洋及び海洋法に関する国連総会非公式協議プロセス」において、海洋プラスチック汚染を気候変動、生物多様性に並んで最重要地球環境問題と位置付け、2017年6月の国連海洋会議でプラスチック汚染対策として3Rの実施、特にレジ袋など使い捨てプラスチックの削減の呼びかけを行いました。そして、世界的な環境意識の高まりの中、グローバル企業を中心に様々な企業による脱プラスチック・脱使い捨て宣言が続いています。これはEUが進める新経済システム「サーキュラー・エコノミー」を加速させることに繋がるように思われます。

 次回は対策を含めた国内・国外の動向を掘り下げてみます。