連載(65) 気候変動災害に備える

2020/01/16Intertek News(67号)

環境主任審査員 郷古 宣昭 Nobuaki Goko

 「海洋プラスチック汚染」の予定を変更し、緊急性の高い話題を提供します。

1. 気温上昇1.0℃と1.5℃
 2018年12月、COP24の直前に発表されたIPCC(気候変動に関する政府間パネル)1.5℃特別報告では、産業革命前と比べた気温上昇を現状の1.0℃から2.0℃に上昇した時の影響は相当の違いがあるが、1.5℃への上昇にとどめた場合でも現状に比較してかなり悪い影響が予想されることが報告されました。
 その後、2019年8月と9月にも特別報告が公表され、このままでは2040年、早ければ2030年にも1.5℃に上昇するとの予測が報告されています。あと10年でさらに0.5℃ということであり、まさに気候危機に突入することになります。
※本誌 vol.65 連載「COP24/IPCC1.5特別報告」もご参照ください。
2. 気温上昇1℃でも被害は激甚

 1.5℃特別報告は様々な事象が1℃上昇でも危険域に入っていることを示しています。私たちは2018年西日本豪雨、台風21号による関西空港の水没、2019年の九州豪雨、台風15号、台風19号等各地の甚大な被害を目の当たりにしてきました。
 海水が熱量の90%以上を吸収し、その蓄熱量は1993年に比べて約2倍に達していると報告されています。これが海洋で大量の水蒸気を発生させ、巨大台風となって日本を襲い、豪雨をもたらしています。温暖化の影響は台風や豪雨にとどまりません。夏場の暑熱は常態化し、世界各地で熱中症や熱波による死者を出し、山林火災を頻発させました。
 2019年9月に発表されたIPCC特別報告ではグリーンランド、南極大陸の氷の融解が急速に進んで、それが海面上昇の原因になっていること、現在のペースで温室効果ガスの排出が続くと、今世紀末には海面上昇は1.1mに達し、7億人が住む沿岸に影響が出るとしています。また、グリーンランド、南極の氷床の融解は既存の海流の流路を変え、海の生態系を乱し、このままでは今世紀末に漁獲量は24%減少することも予想しています。
 報告はまた、シベリア、カナダの永久凍土の融解でこれまで閉じ込められていたメタンや二酸化炭素が大量に放出して、これが温暖化をさらに進めていると指摘しています。こうなると、もはや制御不能のフィードバック連鎖のスイッチが入る可能性を示唆しているように思います。報告は「社会のあらゆる面の改革が必要だ」と指摘しています。

3. ISO14001で対応する

 このような非常事態とも言える状況に対して、「気候非常事態」を宣言することにより、気候変動への政策立案や実践を優先的に行う運動が急速に拡大しています。2019年12月3日時点で26カ国の1,216自治体が登録していて、日本では長崎県壱岐市と神奈川県鎌倉市が登録しています。「緩和」と「適応」の両方に取り組むことを特徴にしています。
 ISO14001:2015では「環境状態」を定義し、組織が環境とその変化が組織に与える影響を認識し、管理することを求めています。例えば、近くの河川が氾濫して商品や原材料が水没する、供給・配送チェーンが止まる等のリスクを評価し、対応策として原材料保管庫床面を水没しない高さ迄上げる、供給者や配送拠点を多重化する等が考えられます。
 気候変動が危険ゾーンに突入している現在、これまで異常視してきた事象は起こりうるリスクと認識すること、気候変動で起こりうるあらゆる事象と組織の状況を分析して、従業員とその家族の安全と事業継続の観点からリスクを評価し、対応策を整えることが重要です。

 次回は、今号で予定していました「海洋プラスチック汚染」第2弾について解説します。なお、今号同様、状況により予定を変更することもございますので、ご留意ください。