連載(66) COP25/気温上昇1.5℃を目指して

2020/05/07Intertek News(68号)

環境主任審査員 郷古 宣昭 Nobuaki Goko

 「海洋プラスチック汚染」第2弾の予定を変更し、今回も緊急性の高い話題を提供します。
 気候変動の被害が深刻化する中で、パリ協定の実施を目前にしたCOP25(気候変動枠組条約第25回締約国会議)が2019年12月2日から2週間、スペインのマドリードで開催されました。

1. COP25を取巻く情勢
  • 前回のコラムで温暖化による地球の破局を避けるために気温上昇を1.5℃に抑えること、そのためには2050年には二酸化炭素の排出を実質ゼロ、2030年には現在より45%程度削減する必要があることを述べました。ところが、国連環境計画が昨年11月に発行した「排出ギャップ報告書」で各国が提示した削減目標では気温上昇1.5℃目標に対して深刻なギャップがあり、4倍の努力が必要であると警告しました。これを受けて、グテーレス国連事務総長が各国の削減目標を強化するようG20サミットで呼びかけました。

  • ⑵ スウェーデンのグレタ・トゥーンベリが2018年に始めた温暖化対策を求める行動が2019年9月の「グローバル気候マーチ」で750万人の若者を集めるうねりに発展しました。このような情勢のもと、各国が緊急性をどう捉え、高まる期待にどう応えるか注目されることになりました。
2. COP25で決まったこと
  • ⑴ パリ協定の大筋ルールはCOP24で決まっていて、積み残された事項が審議されました。その中で多国間の共同事業で削減した温室効果ガス(GHG)の削減量の帰属の問題及び京都議定書の下で余った排出枠の2020年以降への繰り越しの可否が最後まで紛糾しました。日本等が妥協案を提示して決着を図りましたが、削減量に抜け穴を作ってしまう可能性があるとしてEU等の同意が得られず、翌年のCOP26迄先延ばしとなりました。

  • ⑵ パリ協定の1.5~2℃未満目標に対する各国のGHG削減目標の引上げについては今回の議題には予定されてなく、明確な決定をするには至りませんでした。しかしながら、議長国チリの主導で「気候野心同盟」が結成され、73カ国がCOP26までに自国のGHG削減目標を引上げることを宣言しました。この勢いに押され、2020年の各国目標再提出時にはパリ協定の長期目標を考慮して“可能な限り高い野心を反映させる”ことが決定されました。
3. 石炭火力で批判を浴びた日本

 石炭火力を大々的に推進する日本は、国連環境計画が発行する上記の報告書の中で石炭火力を新設しないように促され、COP25の開会式ではグテーレス事務総長による石炭火力「中毒」からの脱却の訴えが対象となりました。(付図に示すように最新の高効率設備やIGCC[石炭ガス化付設]設備にしてもLNG発電の2倍の二酸化炭素を排出します。) これに対し小泉環境大臣は率直に批判を受け入れたものの、日本政府として何も答えることがなく、前記の73カ国の宣言にも加わりませんでした。

4. 結論

 深刻化する異常気象と有効な対策を求める若者達の声の高まりの中で行われた会議としては十分な成果ではないが、既に自国の目標引上げ検討を開始している11カ国を含む84カ国が目標の引上げを表明したこと、パリ協定ルールも一部の未決着はあるものの概ね整ったことでスタート準備はできたと言えるでしょう。ただ、日本が国の内外で推進する石炭火力の新設計画は中止すべきでしょう。さもないと、目標引上げどころか既存の約束すら果たせなくなることは確実でしょう。