連載(67) 海洋プラスチック汚染(その2)

2020/08/24Intertek News(69号)

環境主任審査員 郷古 宣昭 Nobuaki Goko

1. 前回( 連載よみもの64 )では

 毎年少なくとも800万トンのプラスチックが海洋に流出していて、このまま増え続けると2050年までに海洋中に存在するプラスチックの量は重量ベースで魚の量を超えるとの予想があります。汚染が特にひどい水域は東アジアで、その原因は中国およびその周辺国が世界の廃プラスチックを集めていて、運搬及び処理能力を超えたものが海域に排出されたものと推定されます。(付表)
 廃棄されたプラスチックは紫外線や波の力で微細な破片(マイクロプラスチック)となり、海水中の有害化学物質を吸着したまま捕食され、汚染を拡散していることが指摘されています。2020年4月2日付の日経等のメディアは、6000mのマリアナ海溝に生息する新種の甲殻類(オキソコエビ)の体内からPET繊維が検出されたことで、プラスチック汚染が深海に及んでいることを伝えています。

2. 海水中の有害化学物質とは何か

 1960-1980年頃に使用された農薬やDDT、BHCなどの殺虫剤や廃棄物焼却炉で発生するダイオキシン、設備から流出した絶縁油(PCB)等で「残留性有機汚染物質」と称される物質で、環境に直接放出され、今でも広い海水域に残留しているのです。ところが、2009年頃からプラスチックの成形時の熱分解を防ぐ安定剤や製品の紫外線劣化を防ぐ紫外線吸収剤、製品を火災から守る難燃剤等が新たな「残留性有機汚染物質」としてリストに続々載るようになりました。これらの薬剤はプラスチックの成形時に意識的に添加されるもので、環境中に直接放出されるものではなく、海水域に流出したプラスチックから溶出したものです。

3. 各国の対応

 2018年6月に開催された主要7か国首脳会議(G7)で「海洋プラスチック憲章」が採択され、「2030年迄に全てのプラスチックを再利用や回収可能なものにする」という方針を掲げました。UNEP(国連環境計画)は、80か国40地域でレジ袋・プラスチック容器に何らかの規制がかけられていると報告しています。
例えば、

  • ・EUは2030年までに全てのプラスチック包装のリサイクルをめざす。2021年からフォーク、皿、ストロー、マドラーへのプラスチックの利用を禁止する。
  • ・インドは2022年までに使い捨てのプラスチックを全廃する。
  • ・南アフリカ共和国が2003年にプラスチック袋の使用を規制(禁止・課税)しており、他のアフリカ諸国30か国が追随している。
4. 日本がやるべきこと
  • ⑴ レジ袋の有料化が2020年7月から始まりましたが、厚手(50マイクロメートル以上)、生分解性、バイオマス素材のものは規制除外になります。抜け道の多い「有料化」ではなく「禁止」すべきで、レジ袋だけでなく、食器やトレーも規制すべきでしょう。
  • ⑵ 2018年に中国が廃棄物の輸入を禁止して以来、日本の廃プラスチックは行き場を失い、廃プラスチックの再生・処分が中国頼みだったことが露呈されました。自治体が引き受けている分別収集を含めてリサイクルの全体のスキームと技術を再構築する必要があります。
  • ⑶ 植物由来の生分解性プラスチック製品を増やして廃棄物は土に戻すべきです。また、プラスチック製品の意図せぬ海洋流出を考慮して製品設計・添加剤処方を見直すべきでしょう。生命を生み、そして育んだ母なる海を廃棄物の墓場にしてはならないと思います。

 次回は、全世界的規模で影響を及ぼしている新型コロナウイルス危機について考察します。