連載(68) 新型コロナウイルス危機(その1:ウイルス感染の理解)

2020/11/04Intertek News(70号)

環境主任審査員 郷古 宣昭 Nobuaki Goko

 2019年末から全世界を襲っている新型コロナウイルス感染症は、この原稿の執筆時点(2020年9月30日)では世界の感染者は約3300万人、死者は100万人を超えていて終息の気配は見えません。これから数回にわたり「新型コロナウイルス危機」について、「環境と社会的責任」の観点からどのように対応すべきか考えてみたいと思います。

ウイルス感染をどのように理解するか

 微生物(ウイルス、細菌等)が46億年と言われる地球の歴史上に登場したのは30億年前とされています。人間の祖先であるホモサピエンスが誕生したのが20~200万年前で、ヒトは地球生物の中では新参者にすぎません。彼ら(微生物)と共生する覚悟が必要と思います。
 ウイルスは自分自身だけでは生きていけず、他の生物(宿主)の細胞内に侵入して自らの遺伝子を複製し、増殖します。宿主となる生物はコウモリ、センザンコウ、ハクビシン等の哺乳類、蛇、トカゲなどの爬虫類、鳥類であり、多くの場合、人間の立入が困難な奥深い森林でひっそりと棲息していました。ウイルスもまた宿主の体内でひっそりと命を繋いでいました。

感染パンデミックに至った原因は何か

 新型コロナウイルスがどのような経路で人間に感染するようになったか未だ良く分かっていませんが、動物由来の感染症が今世紀に入って頻発していること、その原因は「野生動物の棲息エリアに人間が近づき過ぎたため」と多くの研究者が指摘しています。以下のような事例を挙げています。

  • ・西アフリカでの鉱山開発や東南アジアでの農場・牧場開発のための大規模な森林伐採で生息地を追われた野生動物が人間の居住エリアに進出して来た。また、近年、大規模な森林火災が各地で発生し、多くの野生動物が棲息地を追われたと推定されている。
  • ・森林奥地で働く伐採作業者や建設作業者のキャンプで野生動物の肉(ブッシュミート)が食材として提供されている。また、森林の奥深くに道路ができて周辺都市部からのアクセスが容易になり、ブッシュミートが生きたままマーケットに並び、レストランでも高級食材として使用されている。
  • ・1970年代、狂犬病ウイルスの宿主であるアライグマが愛玩目的で日本に大量に輸入され、飼主から放たれたり逃げ出したりしたものが野生化して広く棲息するようになった。今でもヘビやイグアナ、スッポンモドキが法の網をくぐって持ち込まれている。また、各種ウイルスの宿主になっているセンザンコウが東南アジアでは食用と漢方薬の原料として取引されている。

アメリカの資源保護団体 グローバル・ワイルドライフ・コンサベーション(GWC)主任自然保護オフィサーのラッセル・ミッターマイヤー氏は、「人類は家畜を殖やし、今や全哺乳類の60%を占めるに至った。ヒトは36%、野生の哺乳類は4%に過ぎない。家畜はウイルスの恰好の攻撃の的になり、ヒトへの感染リスクとなっている(*)」と警告しています。
参考*:「世界」(2020.8) P98-104

私たちは何をすべきか

新型コロナウイルスの感染者は現在(2020年9月)も増加中で、その影響は計り知れませんが、ウイルス感染症のさらなる発生を抑制するためになすべきことは以下のようなことでしょう。

  • ⑴ 森林の消失を防ぐこと。これには森林の適切な管理と気候温暖化の抑制が必要です。
  • ⑵ 野生動物を捕獲し、食材や医薬、ペット等に使用する行為をやめること。中国やベトナムでは法的に禁止していますが買い手がいる限りなくならないでしょう。
  • ⑶ 私たち「地球人」は生物多様性を守る義務があることを認識することが重要でしょう。肉の消費を減らし、植物ベースの蛋白質に切り替えていくことも必要でしょう。

 次回はコロナ危機後の世界がどう変わるか、変わるべきか、社会的視点も加えて考えてみます。