連載(69) 新型コロナウイルス危機(その2:グローバリズムの罠)

2021/01/26Intertek News(71号)

環境主任審査員 郷古 宣昭 Nobuaki Goko

 前回は新型コロナウイルスの感染が広がったのは、大規模開発や乾燥化・森林火災等で野生動物の棲息域が狭まり、人と野生動物が近づき過ぎてきていることが原因の一つであると推定し、対応策を述べました。今回は感染拡大のもう一つの要因として「グローバリズム」について考えてみます。

増加した人、カネ、モノの移動

 安価な原材料、安価な労働力を求めて生産拠点や販売・サービスの拠点を世界中に展開するグローバル産業活動が20世紀に進展し、人・カネ・モノが短時間で移動する仕組みが整いました。成長を遂げた途上国中間層による観光旅行ブームも国境を超える人の移動を促進させました。

グローバリゼーションの脆弱性を襲ったウイルス

 今世紀に入るとグローバル化は人・カネ・モノの移動に留まらず、ウイルスや細菌をも地球規模で拡散させるようになりました。実際、今回の新型コロナウイルスは南極を除くすべての大陸・地域で発見されています。
 その結果、ウイルスはサプライチェーンを分断し、全世界の経済活動に大きな影響を与えました。日本では2020年11月時点で約7万4千人が失業する事態に追い込まれ、その半数が非正規雇用者(パート、アルバイト、派遣、契約社員、嘱託等)であることが厚生労働省から報告されています。ただし、この統計は計測が開始された5月25日以降にハローワークが相談を受けた分のデータだけです。一方、総務省が発表した10月の完全失業者数は215万人で、前年同月と比べ51万人増加しています。
 また、サプライチェーンの分断は医療分野ではマスク、防護服、手袋等の不足をもたらし、感染者の治療に献身する医師・看護師を深刻なリスクに曝しました。医療や看護、介護、保育、教育、食料提供、廃棄物収集等、人々の生命・生活に携わる労働者が感染リスクを負いながら、雇用・待遇の面では弱い立場にあることが明らかになりました。

コロナ後の企業経営はどうあるべきか

 今回の感染症パンデミックはコスト削減や効率性を追求したグローバル化は極めて脆弱であることを明確にしました。グローバル産業活動は行き詰まりに来ていると主張している人もいます。自国第一主義に回帰する国もあるでしょう。しかし、自国第一主義で世界から孤立していては、今回のコロナ禍を克服できないばかりか、今後発生するかもしれない新たな感染リスクや気候変動リスク、枯渇資源リスクを解決できません。グローバルに協調していくことこそが必要不可欠でしょう。
 経営情報誌「日経ESG」7月号は各分野の企業のアンケート調査からコロナ後の経営の優先事項を以下のように提起しています。

⑴ 従業員の健康と安全を守り、目の前の人の人権を配慮する
⑵ 取引先の課題解決を支援して、サプライチェーンを強化する
⑶ 気候変動対策(洪水等への備え、CO2排出削減)を実施する

 新型コロナウイルス感染の収束が見通せない状況下で感染防止を含む従業員の健康を重視することは当然ですが、感染収束後も「人権配慮」を重視すること、サプライチェーン強化では「問題解決への支援」にも踏み込んでいることが注目されます。また、ますます甚大化する気候変動リスクはウイルス感染以上に重大かつ差し迫ったリスクであることを示唆しています。

 次回は「コロナ後の企業経営」ついて具体的に述べたいと思いますが、ウイルス感染の状況次第で変更の可能性があります。