連載(71) 新型コロナウイルス危機(その4:改革の担い手は誰か)

2021/07/30Intertek News(73号)

環境主任審査員 郷古 宣昭 Nobuaki Goko

 ウイルス感染拡大は社会的、経済的に不利な境遇にある人々に苛酷な犠牲を強いることが世界共通の課題として明確になりました。日本では職を失ってホームレスになる非正規労働者やアルバイト収入を絶たれて学業を諦める学生の惨状が報道されています。これらはいずれも感染拡大以前から内在する格差社会の歪みが露呈したものですが、各国で発生した街頭デモにはそれぞれの国情が反映しながらも共通の行動理念があるように思われます。

米国の人種差別撤廃運動

 2020年全米に広がった黒人差別撤廃運動(BLM運動)の中核はZ世代と称される15~25才の若者であり、バイデン新政権を誕生させた主役であると言ってもよいでしょう。米国のZ世代の半数は非白人の親を持ち、人種・国籍の多様性を是認し、既成概念に捉われず、「自分らしくありたい」と思っています。彼らは気候変動や人権問題、健康食品に関心を持ち、容赦なく企業及びその商品を評価します。米国の人口の3分の1を占めるため米国社会、とりわけ企業の行動や商品に対する影響は大きいと言われています。
 バイデン政権は今回の感染拡大で露呈した差別や格差の修復・改善策を打ちだしていますが、その成否はZ世代の行動にかかっていると思われます。

フランスの黄色いベスト運動

 2018年11月から断続的に行われているフランス政府への抗議活動で、「炭素税の負担が労働者・中間層に偏っている」ことが発端となって、様々な格差是正を求めて広がりました。抗議デモは一時暴徒化したものの、マクロン大統領から「低所得者層への手当増額」「最低賃金の引き上げ」「社会保障税の増税廃止」を勝ち取り、異常気象問題については無作為に選ばれた150人の市民代表による149件の政策提案が行われ、順次法制化が進んでいます。
 フランスでは街頭抗議デモ等の直接行動による「異議申し立て」は立派な民主主義の権利であることが定着していて、2019年度のエネルギー管理庁による市民意識調査では73%が地球環境の救済を緊急課題と捉えていて、80%が未包装商品の購入や持参した容器へのバルク購入、オーガニック野菜の購入等の環境負荷低減活動を日常的に実施していることが報告されています。
 Z世代による情報発信が抗議デモへの動員や市民代表による政策提言をもたらし、日常の買い物行動においても情報発信が活躍していると言われています。

ミャンマーのクーデターに対する抵抗運動

 2020年11月の総選挙で国民民主連盟(NLD)が圧勝したことに対する国軍の焦りから2021年2月にミャンマー国軍によるクーデターが勃発し、2015年以来民主化運動を指導してきたアウンサンスーチー国家顧問とNLD幹部100人以上が拘束されました。これに対し、Z世代の若者が「民主主義擁護」の観点から立ち上がり、これに公務員が加わって不服従運動を展開しました。しかし、警察と国軍が凄惨な弾圧に乗り出し、5月31日時点で840人の死者が出る事態に至りました。若者達は軍による弾圧の動画を世界に向けて発信する等、抵抗を続けていますが、深刻な状況は続いています。

パンデミック後をけん引するZ世代

 Z世代は生まれた時からスマートフォン、高速インターネット、ゲーム機器が当たり前に存在した「デジタルネイティブ」であり、SNSを駆使して仲間と繋がり、自らの意志を発信しています。情報は瞬く間に広がり、格差是正や気候正義に照らして評価され、パンデミック後の社会変革への大きな力となります。その担い手は紛れもなくZ世代の若者なのです。

 次回は新型コロナ感染以後の環境マネジメントシステム運用について述べる予定です。