連載(72) 新型コロナウイルス危機(その5:コロナ後のマネジメントシステム)

2021/10/26Intertek News(74号)

環境主任審査員 郷古 宣昭 Nobuaki Goko

感染大流行で判明したこと

  • ・誰もウイルス感染大流行を予想せず、感染リスクの備えが不十分でした。
  • ・経済活動の制限で経済的に不利な境遇にある人々に苛酷な犠牲を強いることが多くの国で露わになり、日本では職を失って困窮する非正規労働者やアルバイト収入を絶たれて学業を諦める学生も現れました。

コロナ後の企業経営で求められること

  • ・近年、国境を超えて広がったウイルス感染は数年毎に発生しています。ヒトに感染する鳥インフルエンザも昨シーズンは大発生して国内で987万羽の鶏が殺処分されました。これらを考慮すると感染大流行は「今後も起こりうるリスク」として管理する必要があります。
  • ・2020年は、国際社会が「気候変動」や「持続可能な社会」への取組みを漸く開始した年でした。そのため、国連は感染流行で停滞した経済の復興を流行以前に戻るのではなく、より強靭な社会を構築する「グリーンリカバリー」を提唱しました。これにより、各国の為政者は「気候変動対策」や「社会の歪みを改善する施策」を復興計画に盛り込みました。
  • ・銀行や機関投資家が新しい企業評価として進めていた「ESG(環境・社会的責任・内部統制)投資」を強化する方針を打ち出し、以下の取組みを求めています。
    E:再生可能エネルギー
    S:組織内外の人権問題、地域問題
    G:多様なメンバーによる意思決定

ISO14001, ISO45001, ISO9001で対応する

 上記の取組みはISO14001(環境)、ISO45001(労働安全衛生)、ISO9001(品質)に反映ができます。()内は規格の箇条、規格名がないのは3規格共通です。

  • ・組織の内部外部の状況分析(4.1)からマネジメントシステムの成果の達成に影響するリスクを管理する(6.1)。
    • -豪雨・熱波等の気候変動は対応(8.2)だけでなく、再生可能エネルギーの導入も考慮する(環境6.1、6.2)。
    • -感染流行に厳重に備える(8.2)。ISO45001では病原性危険源として特定し、予防対策する(労安6.1、8.1)。
    • -供給者チェーンの分断は供給者と協調して対応する(8.1)(品質8.4)。
  • ・人権問題には各省庁の指針や法改正情報を基に厳格に判断する。
    • -組織内における「働き甲斐のある仕事」は、政府が進める「働き方改革」に従って「残業負荷」や「休暇取得」を見直し、「ハラスメント防止」や「均等・均衡待遇」を導入するなど法順守で対応する(労安6.1.3、9.1.2)。
    • -供給者チェーンにおける「児童労働」「強制労働」「劣悪労働環境」は原材料の採取現場や途上国での委託生産で頻発し易い。仲介業者や監査会社に調査や認定証明を依頼することが望ましい(労安6.1.2)。
  • ・利害関係者のニーズと期待に耳を傾け、広く声を集め、対応することが組織の存在価値を高めることになる。重要な利害関係者とは関係性を管理し、価値観を共有し、協調して問題を解決することが重要(4.2)。
  • ・意思決定のプロセスに多様な人々が関わっていることを確認する(5.3)。
 以上、コロナ後の企業経営で求められる事項は、ISO(14001、45001、9001)でほぼ対応できることを示しました。個々の問題については機会を見て解説したいと思います。興味のある方は、弊社ホームページ掲載の本誌 vol. 37vol.38vol.41vol.53vol.55vol.57 の同コラムもご参照ください。
 次回は「日本のエネルギー計画」について解説します。