連載(73)第6次エネルギー基本計画

2022/01/18Intertek News(75号)

環境主任審査員 郷古 宣昭 Nobuaki Goko

 2020年10月に菅前首相は「2050年カーボンニュートラル」(CO2排出量を森林・海洋吸収量とバランスさせること)、翌年4月に「2030年温室効果ガスの排出量2013年比46%減以上」を宣言しました。これを受けて経済産業省による「第6次エネルギー基本計画」が策定され、上記宣言を具現化する中長期計画が2021年10月22日閣議決定されました。内容は多岐にわたるので2030年迄の省エネ計画と2030年電源構成に絞って紹介します。

2030年までの省エネルギー計画

 2015年に策定された省エネ計画では2030年の温室効果ガス排出量を2013年比26%削減としていましたが、今回の計画では2030年46%削減に強化されました。このため、2015年に策定した省エネ対象項目約50件(原油換算エネルギー5036万kℓ)を見直し、数件の新規項目を加え、原油換算6200万kℓ規模の省エネ計画としていました。各部門の特徴的な例を示します。

-産業・転換部門:設備機械の改善、水素還元製鉄、バイオマス製品の製造
-業務・家庭部門:ビル・住宅の断熱とパネル設置推進
-運送部門:燃費改善、次世代自動車の普及、貨物運送の効率化

2030年電源構成計画

 2030年の電力需要は8640億kWh、これに要する供給量は9340億kWhの見込みで、その電源構成比を付表で示します。
 最大の問題は石炭火力19%と水素・アンモニア1%を計上していることです。この原稿を作成している11月3日現在、第26回気候変動枠組条約締約国会議(COP26)が開かれていて、先進国は「2030年石炭火力全廃」を宣言するようホスト国から要請されています。そんな状況下で、日本は世界の潮流に逆行する国として非難を受けることは必定でしょう。
 計画書には安価な水素・アンモニアを海外から調達し、石炭と混焼してCO2排出量を下げることが記載されています。しかし、安価な水素・アンモニアは化石燃料から製造するので製造元で多量のCO2を排出することになります。
 原子力の20~22%も問題です。2030年の原発による発電量は約2000億kWhですので現在再稼働している原発10基分1000億kWhでは足りず、休止中の17基を総動員する必要があります。これから8年間で地元住民の了解を得て、地震対策・避難計画・廃棄物対策をクリアして再稼働できるのは数基に留まり、原子力の割合が下がることになるように思います。
 さて、再生可能エネルギーについてはどうでしょうか。計画書には「最優先に最大限導入」を明記していますが、欧米各国が50~70%を掲げる中で、日本の36~38%は少なすぎるように思います。

第6次エネルギー基本計画をどう見るか

  • ⑴私たちが目指す「2050年カーボンニュートラル社会」は省エネ対応のみならず、温暖化の影響を激しく受けつつ適応して行く社会でもあります。住居、避難所、移動、働き方や生活の仕方も変わることが予想されます。「2030年省エネ計画」は現状の積み上げではなく「2050年カーボンニュートラル社会」の姿からのバックキャスティングも考慮されるべきと思います。
  • ⑵本計画では、これまで世界の非難を浴びてきた日本の石炭火力の推進を、2030年後も維持することを明確にしました。「2050年カーボンニュートラル」との整合については排ガスの貯留と化学処理して有効利用するとしていますが、実現性が乏しく、理解は得られないでしょう。