連載(74)COP26の成果と課題

2022/04/18Intertek News(76号)

環境主任審査員 郷古 宣昭 Nobuaki Goko

 国連気候変動枠組条約第26回締約国会議(COP26)はコロナ禍による1年延期を経て2021年10月31日から2週間、英国グラスゴーで開催されました。会議には約200の国・地域から政府代表と非政府機関(企業、NGO、研究機関)の代表約4万人が参加し、2015年のパリ協定採択以来の成果を上げることができました。その成果の一部を紹介します。

気温上昇1.5℃目標に強化

 パリ協定の長期目標である気温上昇2.0℃(努力目標1.5℃)が1.5℃目標の実現に向けて取り組むことが明示されました。最新の政府間パネル(第6次IPCC)によると現在の平均気温は1.1℃上昇しており、1.5℃達成にはCO2排出を2030年に45%削減し、2050年頃には実質(排出量-森林吸収量)ゼロにする必要があります。
 COP26で提出された各国の目標は議長国イギリスのジョンソン首相の強い要請で大幅に引き上げられ、ほとんどの先進国は2050年の実質ゼロと2030年50%前後の削減を提示しています(付表)。途上国でもブラジル、アルゼンチン、タイ、ベトナム等中南米,東南アジアの国々も続々と実質ゼロ排出を表明しました。
 そして、各国の排出ゼロ目標が達成されるなら、気温上昇1.8℃に抑えられるとの試算結果が国際エネルギー機関から伝えられました。しかしながら、2050年排出ゼロを実現するためには2030年の削減目標は不十分であることも指摘され、2022年11月のCOP27迄に2030年目標を強化して再提出することが合意されました。

パリ協定の実施指針が完成

 2015年に採択されたパリ協定の実施指針(ルールブック)が完成しました。ルール未決のまま日本が途上国との間で進めていた排出権取引は、技術・資金の支援の程度に応じて分け合う「二国間クレジット制度」として取引する仕組みが確立しました。これまで未解決になっていた排出削減量の二重計上は、義務化された「相当調整」の実施で避けられる見込みです。

石炭火力発電の削減が決定

 ジョンソン首相の強い要請もあって、石炭火力発電の「段階的廃止」が当初のCOP26決定記録のドラフトに盛り込まれていましたが、産油国やインド等の新興国の強い反対に遭い、「段階的削減」に修正されて決着しました。トーンはやや落ちたものの、各国のエネルギー選択を合意文書に取り上げること自体が画期的なことであり、石炭火力発電の気候温暖化への重大な影響が広く認識されていることを示しています。

日本への評価と今後の課題

 会議の最初に行われたワールドサミットに参加した岸田首相の演説では「2050年CO2実質ゼロ」宣言と「今後5年間で最大100億ドルの追加支援」が高く評価されたものの、2030年を超えて石炭火力を使い続けること、それをアジア諸国にも展開するとし、その技術根拠として水素・アンモニアの混焼や人工光合成の適用を宣言しました。水素・アンモニアの製造に多量の化石燃料由来の原料が必要であり、人工光合成は未開発の技術ですので、これは石炭火力発電の温存策であるとして非難されました。
 今、日本が行うべき喫緊の課題は、エネルギー基本政策・2030年計画の見直しと省エネルギー・再生可能エネルギーの取組みを加速することでしょう。