連載(77)TCFD提言による気候関連報告

2023/01/20Intertek News(79号)

環境主任審査員 郷古 宣昭 Nobuaki Goko

 地球温暖化の被害は年々過酷になり、世界 の企業は二酸化炭素の排出抑制と被災リスク の対応に取組み始めています。その様な中で 金融安定理事会の下に設立された「気候関連 財務情報開示タスクフォース(TCFD)」は2017年 に最終報告としてガイドラインを提言しました。

「TCFD 提言」とは

 付表に示す4項目の情報開示が要求されています。それらは気候変動の影響によるリスクと機会を事業戦略へ展開し、財務上の影響も把握可能な仕組みです。気候変動リスクは以下の2種類が記載されます。

  • ・物理的リスク:気温上昇など慢性的に増大するリスクと洪水など突発的リスク
  • ・移行リスク:排出削減への不対応や新技術への対応遅れにより利害関係者の懸念が増加する低炭素社会への移行リスク
 気候変動による機会は気候変動の緩和適応による経営改革の成果として現れ、「資源の効率的使用」「エネルギー源の多様化」「改良製品の上市」等で、これらをまとめてレジリエンス(強靭化)の向上を得ます。

シナリオ分析

 シナリオ分析とは将来の気温上昇が自組織にもたらすリスクと機会を予測し、それに基づいて対応策や戦略を策定することです。TCFDは付表の「戦略」の策定の際に、1.5℃に抑えるシナリオを含む2つ以上のシナリオで実施することを求めています。
 今後の気候変動は今世紀半ばまでは増大が続く予想ですので、安易な予測は避け、国連気候変動政府間パネル(IPCC)のシナリオを参照するべきでしょう。2021-2022年に発表されたIPCC第6次報告に1.5℃目標に対応する「SSP1-1.9」、3~4℃上昇に対応する「SSP3-7.0」のシナリオが載っているので利用できます。時間軸については2030年と2050年を設定すると良いでしょう。

TCFD提言の主流化

 組織の環境・社会的責任活動(ESG)の開示の枠組みを提供しているCDP、GRI、IIRC等の国際機関はTCFD提言に従うことを明言しているので、気候変動関係の活動情報の開示はTCFD提言の様式に統一されるのは確実です。
 日本政府の対応も早く、2018年には環境省と経産省がTCFD提言に賛同を表明し、国内向けのガイダンスも策定しています。更に、民間の動きも活発で2019年には「TCFDコンソーシアム」が設立されています。また、東京証券取引所はプライム市場に上場している企業にTCFD提言と同等の情報開示を求めていることからもTCFD提言による情報開示の広がりは進むように思われます。
 最後に、TCFD提言による情報開示、特に二酸化炭素の排出量や削減量等はサプライチェーンにも及ぶこと、従って部材・部品供給者(上流)からの情報確認と納品先顧客(下流)からの調査依頼もあり得ることを覚えておくべきでしょう。