連載(78) COP27の成果/損失と損害

2023/04/11Intertek News(80号)

環境主任審査員 郷古 宣昭 Nobuaki Goko

 2022年の国連気候変動枠組条約第27回締約国会議(COP27)は11月にエジプトのシャルム・エル・シェイクで開催されました。この年は国土の3分の1が水没したパキスタンを始め世界各地で深刻な気象災害が頻発し、日本でも記録的猛暑に見舞われました。そんな中で議長国エジプトは気候災害の「損失と損害」を優先議題に据え、最終的に被災国に対する支援基金の創設に導きました。

「損失と損害」 の支援金創設が決定

 地球温暖化への責任は全世界共通ですが、産業革命以来の石炭・石油からの二酸化炭素の大量放出を考慮すれば、先進国と途上国では差異があるとする「共通だが差異ある責任」の原則が1992年の地球サミットで合意されました。京都議定書では「差異ある責任」を認めて先進国だけが温室効果ガスの削減義務を負いました。2015年のパリ協定では全ての参加国に「緩和と適応(温室効果ガスの排出削減と気候災害への対応)」を義務付け、脆弱な国々に対しては先進国から年間1000億ドルの支援を準備しました。更に、適応能力を越えた災害の損失と損害には先進国が支援するとしつつも内容未決定のまま今日に至っております。
 COP27では当然の補償として支援を受けたい途上国と人道支援で収めたい先進国とで折り合いがつかず、最終的には議長提案で損失と損害に関する支援基金を1年後のCOP28で創設することで決着しました。資金提供は先進国とNPO、民間企業、金融機関等で、受け手は途上国の中でも特に脆弱な国々です。詳細はCOP28で決定する予定ですが、長年の懸案が決着し、年々過酷になる気候災害に世界が強調して立ち向かうことを明確にしたことを意味しています。

2030年目標の強化は議論なし

 パリ協定の長期目標である気温上昇1.5℃目標の実現のために各国の2030年目標の強化が必須でしたが、前述の損失・損害論議で時間切れとなり、更なる排出削減強化は盛り込まれませんでした。
 COP26で賛同を得た「石炭火力発電の段階的削減」は石油・天然ガスを含む「化石燃料の削減/廃止」に拡大する提案があり、80カ国の賛同を得ましたが、中東産油国の反対もあり、COP26の決定を上回ることはできませんでした。しかし、化石燃料削減/廃止がこれほどの支持を得たことは望外の成果と言えるでしょう。

国連は非国家アクターの「実質ゼロ(ネット ゼロ)宣言」に「基準」を提言

 国連ハイレベル専門家グループが非国家アクター(政府以外の活動組織:企業、金融機関、NPO、教育機関、都市等)による「実質ゼロ(ネットゼロ)宣言」に基準を設定し、「10項目の提言」を発表しました。基準に則って透明性、信頼性を確保することにより真の排出抑制を実現するという国連の強い意志が表れています。今後は「実質ゼロ(ネットゼロ)宣言」を実施、ないしは予定している組織は基準を満たす必要がありそうです。10項目の提言の日本語訳は「日本気候リーダーズ・パートナシップ(JCLP)」のホームぺージに公表されています。
https://japan-clp.jp/wp-content/uploads/2023/02/HLEG-report_JPN.pdf

日本への評価と今後の課題

 損失・損害への支援基金設立が決まり、温暖化の被害救済や防災に道が開かれた現在、西村環境大臣の演説「アジア太平洋地域での早期警戒システム導入構想」は歓迎され、日本の防災技術が活躍する場は増えるでしょう。その際、前述の「共通だが差異ある責任」を思い起こし、誠実に対応することが大切と思います。
 一方、化石燃料からの脱却に賛同の波が広がっているにもかかわらず、日本は化石燃料関係事業への公的支援が最も多いことで今回も不名誉な「化石賞」を受賞しました。日本の行動は世界の脱炭素気運を損ねるものと言わざるをえません。