連載(8) コミュニケーション
2005/10/17Intertek News(10号)
環境主任審査員 郷古 宣昭 Nobuaki Goko
前回の「法的及びその他の要求事項」に続いて、今回は「コミュニケーション」について解説します。Communicateという語は、①伝達する、②周知する、③対話するという意味であり、この規格ではいずれの意味でも使われています。
JIS訳では、③の意味では敢えて和訳せず日本語のコミュニケーションをそのまま当てており、対話を通して情報や考えを伝える意味を持たせています。
さて内部コミュニケーションは、方針や目的・目標達成のために重要であり、階層間の意思疎通と部門間の意思疎通が活発に行われることが求められています。階層間については、例えば、マネジメントレビューの結果をどのようにして作業現場に伝えるか、あるいは作業現場の提案や意見がどのように上層部に伝えられるかということです。「どのように」とは、効果的に伝えるためにどうすればよいのか、どうすれば活発な意見が出るのかを探り、そのフィードバックを含めた方法を決め、仕組みとして確立することです。一般に、前者については掲示板の活用、後者については改善提案制度が有効です。部門間については既存の部門長会議等を利用することが効率的でしょう。
次に外部の利害関係者とのコミュニケーションですが、苦情や問い合わせを受け付ける部門や担当者を決め、どのように対応したかを記録することを手順化することです。情報管理や権限にこだわってレスポンスが遅れることがないように、利害関係者の立場を考慮することが大切です。それは、利害関係者に対して説明責任を果たすのみならず、利害関係者との間に信頼関係を築くためにも重要なことです。
第3番目に著しい環境側面に関する外部コミュニケーションについてです。そもそも外部コミュニケーションすべき内容は何かが問題ですが、その点について規格は明確に説明しているとは言えません。ただ、日本の多くの組織が解釈している「緊急事態発生時に、当局や地域住民に伝達する、サイトが保有する危険物・有害物情報」に限定解釈するといかにも不自然です。付属書A4.3には外部コミュニケーションの方法として、年次報告書、ニュースレター、インターネット、地域会合が例示されていることから、組織が実施している環境保全活動一般の情報や利害関係者の懸念事項を意味しております。緊急事態に限ったことではないのです。
実際、ISO14001と同様に英国規格BS7750から生まれたEMAS(環境管理監査スキーム:1993年EUで成立した環境マネジメントシステム規格)では環境声明書の発行が義務付けられており、その中で環境活動情報を公開していることやISO14004の4.3.3コミュニケーション及び報告の項には環境活動の報告の方法が記載されていることを考え合わせると、現在、先進的な企業や自治体が実施している「環境報告書」を視野においていることは間違いありません。規格は著しい環境側面について、外部コミュニケーションするか否かの決定とその記録、さらに、外部コミュニケーションすると決定した場合はその方法の決定を求めております。これは、緊急事態とは無関係ですので、常日頃から決めておくべきことです。
なお、規格は外部コミュニケーションしないことも選択肢の一つとして認めていますので、「情報公開しない」という決定がなされても不適合にはなりません。しかしながら、「情報公開しない」ということは、資源・エネルギーを消費し、温室効果ガスを排出しながら活動する事業者として説明責任を果たしてないことを意味しており、社会的な信頼を損なうことにもなりかねないという危険性をはらんでいることを認識すべきです。
次回は「緊急事態」について解説します。