連載(80) 生物多様性条約COP15/生物多様性の危機

2023/10/19Intertek News(82号)

環境主任審査員 郷古 宣昭 Nobuaki Goko

 生物多様性条約は以下の目的達成のために、1992年の地球サミットで気候変動枠組条約と共に締結されました。
①多様な生物とその生息環境の保全
②生物資源の持続可能な利用
③遺伝子資源からの利益の公平・衡平な配分
 これを実現するために生物多様性条約締約国会議がほぼ2年毎に開催され、さまざまな原則や措置がなされました。特に目的①の「生物多様性の保全」については「生物多様性の損失速度を顕著に低減する=2010年目標」を採択して取り組みましたが成果は得られませんでした。
 2010年の名古屋会議では「2050年自然と共生する社会」を実現するための20項目の数値目標からなる「愛知目標(愛知ターゲット)」を採択しました。 (ここまでの取組み・成果の詳細は本誌 vol.29 vol.30 vol.31 vol.32 を参照願います)

 COP15昆明・モントリオール会議

・愛知目標の評価
 2022年12月にカナダのモントリオールで開催されたCOP15では、「愛知目標」は「進歩は見られたが完全に達成されたものはない」と評価され、引き続き2030年に向けた「2030年ミッション」に取り込まれました。また、100万種の動植物がここ10年間で絶滅する恐れがあること、その絶滅速度は過去の大規模絶滅の数百倍に達することが国連政府間科学・政策プラットフォームから報告がありました。
・昆明(こんめい)・モントリオール生物多様性枠組みの合意
 「2050年ビジョン」として「自然と共生する社会」を掲げ、その要件として「生態系サービスが保持されることにより健全な地球が維持され、全ての人々に不可欠な恩恵が与えられる」ことが付記されました。
 「2030年ミッション」として生物多様性の損失速度を低減する緊急行動のための23項目の目標が設定されました。特に注目される目標は「陸、海の30%以上を保全する(「30by30」)-目標3」と「ネイチャーポジティブ-目標全体」です。前者は現在、世界の陸の17%、海の10%を保護区等で保全しているのを2030年迄に各々30%に引き上げること、後者は生物多様性の損失を止めて増加に転ずることを意味します。その他の重要な目標として「外来生物種50%低減-目標6」、「農薬リスク・プラスチック汚染の低減-目標7」、「食料廃棄・過剰入手の低減-目標16」があります。

気候と生物の二つの危機に取り組む

 生物多様性に富む地域は二酸化炭素の吸収量が多いことが知られていて、自然に基づく解決で気候変動の緩和と適応に貢献することが2030年ミッション-目標8に記載されています。つまり、気候変動と生物多様性は密接な関係があるので、2つの活動は統合的に進めることが望まれます。

生物多様性のホットスポット日本

 シダ類・種子植物等の維管束植物固有種1500種以上の豊かな自然があって、多様な生物が生息しているにもかかわらず、絶滅の危機にある地域36か所が世界の生物多様性ホットスポットに指定され、その1つに日本全土が登録されています。維管束植物7000種、脊椎動物1000種以上が確認されていて、固有種率も高く、維管束植物・哺乳類で4割、爬虫類・両性類・淡水魚の8割が日本固有種です。
 日本政府は前記の「30by30」を「愛知目標」の後継目標として重視していて、2023年5月時点で、陸域20.5%、海域13.5%を保護地域として認定しています。これに里地里山、水源の森、都市公園、企業保有林、寺社の庭園等を追加認定して、広範な協力を得て目標達成を目指すとしています。