連載(81) 水素プロジェクトの乱立/見直される電解法

2024/01/18Intertek News(83号)

環境主任審査員 郷古 宣昭 Nobuaki Goko

 2050年温室効果ガス排出ゼロに向けて発電部門の脱炭素化・再生エネルギー化が進行する中で、産業・家庭の非発電部門での脱炭素化として製鉄用高炉ガス、航空機燃料、家庭用燃料ガス、化学品原料の製造開発が始まっています。これらの代替燃料・原材料として水素が重要な役割を果たすことが期待されています。

「水素」とはどんな物質か

 水素は常温では無色無臭の比較的安定なガスですが、分子が小さいため金属を脆化させる、漏れやすい、燃焼範囲が4~75%と広いなどの欠点があり、貯蔵容器や作業場の換気や火気使用には特段の注意が必要です。
 また、液化させるためには-250℃以下の極低温にする必要があり、輸送には相応の技術とコストが必要です。

「水素」の製造法

 水素は天然資源には存在しないので水を電気や熱・光エネルギーで分解することで得られます。多くは化石燃料を燃焼させ、水蒸気を吹き込んで得られますが、燃焼に伴う大量のCO2が排出されます。CO2の排出を避けて水素を得るには中学の実験でなじみの電気分解法がありますが、水を分解するには目的生成物である水素の化学エネルギーの数倍の電気エネルギーを加える必要があります。そのため、電気分解法は水素の大量生産には向いていません。
 製法による脱炭素寄与を判別するために色分けした名称が用いられています。化石資源から製造され、CO2の排出を伴う水素を「グレー水素」、化石資源から製造され、CO2を回収・貯留して他の化学品等に転化して排出履歴を消した水素を「ブルー水素」、再生可能電力による電気分解で製造される水素を「グリーン水素」と呼称しています。最近、欧州連合(EU)は色分けでは不十分であるとして原料供給から製造までの全工程のCO2排出を明示し、水素生産量1kg当たりのCO2排出基準を3.4kg-CO2/kg-H2以下と定めています。

乱立する水素プロジェクトと日本

 2020年、EU・ドイツが電解法による水素の製造を発表すると、主要国が続々と名乗り出て世界を驚かせています(付表参照)。米国の調査機関によると、2030年の世界の水素需要は1億トン、2050年は5億トンに達すると予測されています。気候変動の影響が深刻になり、CO2排出削減に一刻の猶予も許されない状況にあること、安価な再生可能電力の入手が可能になったことが背景にあります。
 日本は早くから水素に着目し、2017年に「水素基本戦略」を発表し、供給目標として2030年300万トンを宣言しています。東京大学が酸化チタンへの光照射で水が酸素と水素に分解することを発見し、その応用研究を続けていることを背景に、2014年に人工光合成(水から水素を取りこみ、CO2と反応させてメタンを得る)プロセスの開発が始まりました。2021年実装テストで一定の成果は得られたものの、光変換効率が目標レベルに達せず、更なる研究を要することが判明しました。よって、2023年6月の「改定水素基本戦略」では2030年までに中規模の水電解装置を導入し、水素利用の展開には海外の安価な低炭素水素を輸入するとしています。