連載(82) COP28/化石燃料からの転換を合意

2024/04/19Intertek News(84号)

環境主任審査員 郷古 宣昭 Nobuaki Goko

 国連気候変動枠組条約第28回締約国会議(COP28)が2023年11月30日から約2週間アラブ首長国連邦(UAE)のドバイで開催され、「ガス・石油を含む化石燃料からの転換」という歴史的な合意がなされました。

各国の自主的取り組みの進捗評価

 COP28の最終合意文書に現在の取り組みでは産業革命前からの気温上昇を1.5℃に抑えるパリ協定の目標は実現不可能であり、世界全体の温室効果ガス排出量を2030年までに2019年比で43%削減し、2035年までに60%削減する必要があること、そのためには2030年までに世界の再生可能エネルギーの設備容量を3倍に、エネルギー効率を2倍に、二酸化炭素処理のないエネルギーシステムからの化石燃料の転換を加速することにより、2050年までに温室効果ガスの排出ネットゼロを達成すると明記されました。「ネットゼロ」とは排出量から森林・海洋の吸収量を差引いた値をゼロにすることを意味します。
 次回の進捗評価は2026年からの5年間の活動が対象になりますが、今回の合意文書に基づく修正はすぐにでも必要でしょう。また、2025年は各国の2035年目標の提出年ですが、2024年中に事前レビューで各国間の衡平性を図ることが提案されています。

「適応」のグローバル目標に関する枠組み

 温室効果ガスの排出削減は気候変動の原因を低減する「緩和策」に対して、災害に備える「適応策」も重要です。近年、気候変動災害が激甚化・広域化している状況で、各国が協調して取り組むための7分野(水資源・水災害、食料・農業、健康、生態系・生物多様性、インフラ、貧困、遺産保護)に及ぶ「適応のグローバル目標2030年」が設定されました。今後2年かけて現状評価と資金支援ルールを検討する計画です。

損失と損害

 これまで、先進国の温室効果ガス排出の責任と途上国が受ける気候災害をめぐって補償問題が30年以上にわたって議論されてきました。2015年のパリ協定には「損失と損害」は補償の根拠を含まないことが明記され、気候変動の被害は適応策の強化での対応を原則としました。しかしながら、激甚化する気候災害は適応策だけでは対応できなくなり、2022年のCOP27では被災による「損失と損害」に対する新たな基金の設立が決定されました。 
 COP28では基金の運用細目の決定が予定されていて、難航することが予想されていましたが、特別委員会による原案が策定されていて、会議初日に合意が成立しました。活動資金についても議長国UAEが1億ドル、ドイツ1億ドル、英国6000万ポンド、米国1750万ドル、日本1000万ドルの拠出が即日表明され、その後もフランス等EU諸国が名乗りを上げ、会期中に7億ドルを超える額に達したそうです。

日本はどうする

 岸田首相はCOP28のスピーチで自然エネルギーの設備容量を3倍にする誓約に賛同しており、2023年5月のG7サミットでは2035年までに電力部門の完全または大部分を脱炭素化するという合意を確認しています。日本の現状(2022年)は、自然エネルギーが22.7%、太陽光と風力のみでは10.8%ですので、まずはCOP28の合意に向けて最大限の努力をすることが必要です。
 政府は石炭火力を活用して「二酸化炭素回収・貯留・化学品への転換利用」と「アンモニア燃焼」を2050年に完結する国家戦略として進めてきましたが、技術は開発途上にあり、COP28で合意した2030年目標には到底対応できません。
 2024年は国のエネルギー基本計画の改定(第7次)の年です。国家戦略を見直し、国連に提出する2035年目標と整合させて計画すること、そして、2035年脱炭素化を宣言する国も増えている中、早い時期に石炭火力からの転換を宣言することを期待します。