連載(84) ウェルビーイング(2)-ウェルビーイング経営-

2024/10/24Intertek News(86号)

環境主任審査員 郷古 宣昭 Nobuaki Goko

 前回は「ウェルビーイング(Well-being)」とは「肉体的、精神的、社会的に満たされた状態」であること、近年それが注目されて人々の健康と幸福が求められていることを述べました。今回はウェルビーイングが企業経営に適用される「ウェルビーイング経営」について述べます。

「ウェルビーイング経営」が注目される背景

 幸福を感じている従業員は幸福を感じていない従業員よりも創造性が3倍高く、生産性も1.3倍高いという海外の研究結果()があり、企業がウェルビーイングに関心を持つのは当然でしょう。
 また、昨今の労働人口の減少下で離職者防止と人材獲得のための魅力的な職場づくりにウェルビーイングの導入を希望する企業もあるでしょう。
() 幸福の戦略特集 「ハーバード・ビジネス・レビュー」 (ダイヤモンド社)2012年5月号

従業員エンゲージメントとワークエンゲージメント

 企業・組織で働く人の働き方改革が進む中で「従業員エンゲージメント」と「ワークエンゲージメント」が注目されています。前者は従業員が企業・組織の目標・理念を理解して貢献意欲・帰属意識を持っている状態で、後者は仕事に対して熱意・没頭・活力が満たされている状態を表しています。
 しかし、ここで言う「エンゲージメント」は従業員の所属企業・組織への愛着心を表すビジネス用語であり、通常、企業・組織側の目線で構成されています。これをウェルビーイングと評価するためには働く人の側に立って個人の幸福度を高める施策かどうかを確認する必要があります。

幸福を感じる要素

 幸福の評価については様々な分野で研究されています。ウェルビーイング評価の分野ではペンシルバニア大学のセリグマン教授の5要素が、頭文字を取った「PERMAモデル」として知られているので以下に紹介します。

  • ① Positive emotion:ポジティブな感情を持つ
  • ② Engagement:何かに没頭する
  • ③ Relationship:他者との良好な関係を築く
  • ④ 生きる意味、生きがいを持つ
  • ⑤ Accomplishment:達成感を感じる

①はうれしい・面白い・楽しい・感動・感謝・希望等の感情を持つこと、②は時間を忘れて熱中すること、③は助け合う関係をもつこと、④は社会・地球・環境・地域への貢献等を自覚すること、⑤は目的達成の喜びを意味します。

 日本では慶応義塾大学大学院の前野隆司教授が日本人向けに以下の4因子を提案しています。

  • ⑴ やってみよう因子:やりがいや強みを持つ
  • ⑵ ありがとう因子:繫がりや感謝、利他性を持つ
  • ⑶ なんとかなる因子:チャレンジ精神をもつ
  • ⑷ ありのままに因子:独立性と自分らしさを保つ

日本では同調圧力が強く、皆と同じようにする傾向が強いので、⑷をあえて取り入れたのだそうです。

ウェルビーイング経営の実行

 ウェルビーイング経営の実行は従業員に軸足を置いて実施することが基本ですので経営者と従業員及び従業員同士のコミュニケーションの仕組みを確立し、対話を活発にすることが前提になります。
 「感染予防、ストレスチェックを含む健康管理」「在宅勤務を含む働き方・労働環境の改善」「業務上の課題の解決」「地域や利害関係者との対話」など、前述の幸福の要素を取り込みつつ実行するとよいでしょう。
 要は、働く人がプラス指向で挑戦意欲を持ち、生きがいを持つような経営がウェルビーイング経営であり、これが創造性・生産性を高めて社会全体の幸福につながるのです。