連載(85) エネルギー基本計画改定を注視する

2025/01/17Intertek News(87号)

環境主任審査員 郷古 宣昭 Nobuaki Goko

 2024年は記録的猛暑が世界各地に洪水や農作物被害をもたらしました。これは大気中の温室効果ガス(GHG)の増加による地球の暑熱化が進んでいることを示しています。今年度は2021年に策定された第6次エネルギー基本計画()の3年毎の見直しの年であり、GX(グリーントランスフォーメーション:脱炭素社会に向けて再生可能なクリーンなエネルギーに転換する)政策と合わせて年度内に改定の予定です。どのような議論がなされるか注目すべき点を整理します。
本誌vol.75(2022年1月発行)参照

国際社会の要請にこたえているか

①COP28(国連気候変動枠組条約第28回締約国会議)で採択された次の同意事項を取り込むこと。


  • 2030年までに世界の再生可能エネルギーの発電容量を3倍に、エネルギー効率を2倍にする。
  • 2035年までの石炭火力発電の段階的削減を加速する。この文言はG7会議で、2035年までに電力部門を完全に、または大部分を脱炭素化すると具体化されました。


②各国は自国の活動の目標と計画を5年毎に提出する義務があり、今年は2035年目標の提示が求められています。

「ネットゼロ」 より 「1.5℃目標に整合」

「ネットゼロ」とは温室効果ガスの排出量から森林等による吸収量を均衡させて排出量を実質ゼロに抑えることを意味します。「2050年ネットゼロ」はパリ協定締約国の共通目標で、日本も2020年に菅首相が宣言しています。
 しかし、2050年にゼロを達成してもそれ以前に無思慮に排出したGHGは大気中に蓄積して甚大な災害をもたらします。つまり、気温上昇を1.5℃に抑えるために許容されるGHG排出総量は限られているので、厳密に算定された排出量に抑えることが重要です。これを「(気温上昇)1.5℃目標に整合」と表現します。気温上昇1.5℃抑制のためにIPCC(気候変動に関する政府間パネル)が示した2035年までの世界全体の温室効果ガス排出の削減量は60%(2019年比)です。

GX戦略とエネルギー基本計画の進捗

 日本が注力しているのは石炭火力発電にアンモニアを混焼させること及び石炭火力の排ガスからCO2を回収して地層または海底に貯留する技術の確立です。前者は実証テストがアンモニア混焼率25%で止まっていることやアンモニアの製造段階でのCO2排出、後者は適切な貯留場所がないことや長期貯留後のCO2の用途が未定であることが問題です。
 2023年度の年間発電量の電源構成比を付表に示しました。これによると、化石燃料発電量としては10%程度減少しているが、石炭火力は全く減っていません。一方、自然エネルギーはバイオマス発電と太陽光が寄与して着実に増加しています。ただ、国際社会の要請からは遠く及ばないと言わざるを得ません。
  • 日本全体の電源構成比

GX・基本計画改定に望むこと

 激化する気候災害やCOP28・G7での約束、1.5℃目標に整合等を考慮して、遅滞なく決断することを期待します。特に、①GXテーマのアンモニア混焼・排ガス貯留の停止、②再生可能エネルギーの大展開として洋上風力の即時着工、住宅・屋上ビルへの太陽光パネル設置義務化、③政府・自治体・地域住民間の協力強化、ソーラーシェア農業への支援を期待します。