連載(86) COP29の成果と日本のエネルギー政策

2025/04/16Intertek News(88号)

環境主任審査員 郷古 宣昭 Nobuaki Goko

COP29の成果

 2024年11月アゼルバイジャンで開催されたCOP29(国連気候変動枠組条約第29回締約国会議)は混乱の末、今後の活動に繋がる基礎を築いて終了しました。

①気候資金に関する目標決定
 2013年から実施している先進国から途上国に供与する気候変動対策支援資金を年1000億ドルから年3000億ドルに引き上げることが決定されました。ただし、これは公的資金に民間資金を合わせたもので、金額も低く、途上国は大いに不満でしたが、決裂を避けるための妥協をせざるを得ませんでした。しかし、国連ハイレベル専門家グループによる途上国の必要資金調査報告「2030年までに年1兆ドル、2035年までに年1.3兆ドル」も考慮して、前記支援金とは別に「気候資金に関する新規合同数値目標として、2035年までに年1.3兆ドルを目指す」ことが合意されました。資金はすべての政府と民間から集められる途上国向けの資金であり、1.3兆ドルに向けたロードマップがCOP30までに作成されます。
②COP28(前回)採択事項のフォロー
 COP28で採択された「化石燃料からの脱却」「2030年までに再生可能エネルギー3倍化」「エネルギー効率の改善率2倍化」等の進捗を評価して各国が2025年2月に提出する2035年目標を強化するチャンスでしたが、有効な合意もなくCOP30に持ち越すことになりました。
③パリ協定6条の最終合意
 難渋していたパリ協定の6条(市場メカニズム)が合意され、パリ協定のルール集が完成に至りました。これにより国外で実施した温室効果ガスの排出削減・吸収量を自国の削減目標達成に活用できるようになり、世界全体の温室効果ガス削減が進むことが期待されます。

日本のエネルギー基本計画

 政府は昨年末にこれまでの電力政策を見直して2035年の温室効果ガス排出量と電源構成比を発表していて、これが「第7次エネルギー基本計画」として2025年2月18日に閣議決定されました。主な問題点を指摘しておきます。

⓵2035年の温室効果ガス排出削減目標
 2035年の削減目標を2013年比60%減とするとしていますが、IPCC(気候変動政府間パネル)は1.5℃目標の達成には2035年までに2019年比で60%削減が必要としています。日本政府の2013年比に換算すると66%削減に相当しますので削減目標として不十分でしょう。
 また、2040年時点での再生可能エネルギーの目標を発電量全体の4~5割としていますが、これまでの2030年計画36~38%とあまり変わらず、拡大意欲が感じられず、1.5℃目標には整合しません。
⓶火力発電の温存と原発依存への回帰
 2040年に火力を3~4割としていますが、これはCOP28やG7で合意した「2035年までに石炭火力発電の段階的廃止」を無視していることを示しています。この背景には火力発電の排ガスからCO2を回収して貯留し、合成燃料や化学品の製造原料に利用する技術確立の意図があります。実用レベルにはまだ遠く、1.5℃目標にはタイムスケール上整合しません。将来技術として研究開発にとどめて、今は1日も早く石炭火力を終了させることが肝要です。
 2040年の原子力発電を2030年計画と同程度の2割としていますが、「可能な限り依存度を低減」するという文言を削除して「必要な規模を持続的に活用」する方向に舵を切りました。具体的には休止中の炉の再稼働加速と廃炉の建て替え容認、更には次世代革新炉の建設です。ここ数年の原子力電源構成は7~8%ですので再稼働だけでは2割には足りません。また、使用済み核燃料の処理や放射性廃棄物の処理も片付かない現状では「建て替え」や「新型炉」による新設は関係地域の合意を得るのは難しいでしょう。