連載(88) 地球環境問題のこれからを考える 《最終回》

2025/10/30Intertek News(90号)

環境主任審査員 郷古 宣昭 Nobuaki Goko

熱せられる地球

 2024年は世界の平均気温が観測史上最も高く、産業革命前と比べて1.5℃を超えたと報告され、世界各地で高温乾燥による山火事が頻発する様子が報道されました。今年の夏は日本でも連日危険な暑さが続いた一方、集中豪雨の頻発で農産物への被害も報道されました。

国連気候変動枠組条約締約国会議(COP)

  • 2025年11月にブラジル・ベレンで開催予定のCOP30に向けた準備会合が6月にドイツ・ボンで行われました。2035年の温室効果ガス(GHG)排出目標を提出した国は26ヵ国だけでしたので、2035年のGHG総排出量と1.5℃目標への整合性判断はCOP30へ持越しになりました。
     気候変動への適応(災害予防)に関する未解決事項(先進国から途上国への資金動員など)はボン会議での「対話と提言」をベースにCOP30で審議されることになりました。
  • 気候変動と生物多様性の損失、環境汚染は「地球の3大危機」と言われていますが、いずれの国際取り組みも進捗が遅れています。生物多様性条約第16回締約国会議は2024年10月の会期中に終了できず翌年2月再開会合で終了しています。プラスチック汚染に係わる国際条約は2024年内合意を目指していましたが、11月の政府間交渉で合意に至らず中断状態です。
     しかし、この種の問題は多角的・相乗的な取り込み(シナジー)を進めることで解決できるとする動きがあります。今後、COP30をはじめ、気候変動の国際取り組みは生物多様性や循環(リサイクル)経済、環境汚染の予防への相乗効果を示すことも求められます。
  • 米国のトランプ大統領は2025年1月27日にパリ協定からの米国の離脱を国連に通告しました。それに対して、ブルームバーグ慈善財団と24州の知事で構成する「米国気候同盟」が資金提供を含む米国の義務を果たすと宣言しました。パリ条約に関する国連活動の混乱は避けられそうです。
     しかし、問題は気候変動に関する政府間パネル(IPCC)であり、これに気候データ・解析・予測を提供する研究機関がトランプ政権から研究者解雇や研究資金停止の攻撃を受け、いくつかの機関が解体の危機に瀕しているそうです。気象予測が得意な日本はIPCCへの支援を強化する必要があるでしょう。

日本が早急に取り組むべき重要課題

⑴地震、大雨、山火事の対策を強化する
  • ・避難のタイミングや移動手段、トイレや空調等の避難所の居住性確保。
  • ・堤防・排水溝・下水管の処理能力強化。
  • ・森林の整備(倒木・伐採残の処理、里山整備)。
⑵太陽光パネルの設置を拡大する
世界の太陽光は急拡大で主電源化しているが、日本の新規導入量は1.7%。
  • ・農作物の日焼け防止を兼ねて、畑に高足の架台またはハウスの天井にパネルを設置(「ソーラーシェア」)。
  • ・一般住宅の屋根にドイツで急拡大している「プラグイン方式パネル」を設置。
⑶GX政策を見直す
  • ・水素・アンモニア混焼の石炭火力発電は、排ガスを回収し、地下・海底に貯留が前提。多くの技術課題が未解決、高コストも予想されるので中止すべきです。
  • ・原発の格納器は放射線照射で脆くなり、振動・衝突で破損し、大事故になる。地震頻発国日本に原発設置は間違い、再稼働も新設も中止すべきです。

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 本連載は、今回をもちまして最終回となります。
20年以上にわたり続けてまいりましたが、一度でも目を通してくださった方に、心より感謝申し上げます。