連載(9) 緊急事態への準備及び対応

2006/01/16Intertek News(11号)

環境主任審査員 郷古 宣昭 Nobuaki Goko

 前回の「コミュニケーション」に続いて、今回は表題のテーマについて解説します。「緊急事態への準備及び対応」は環境マネジメントシステムの中では重要な要素のひとつです。なぜでしょうか?緊急事態を単に地震・雷・火事・洪水・・・と、思いつくまま天災事変を並べるだけではその答えは出ないでしょう。

 まずは「緊急事態」が4.4の「実施及び運用」の項に掲げられていることを理解する必要があります。環境マネジメントシステムの主要な目的は環境側面を管理することであると言ってよいと思います。管理する方法は三つあって、その第一は改善(向上、削減)を目指すために目的・目標に取り上げ、実施計画を立てて実行します。二番目は現状レベルあるいは規制範囲内で維持管理すること。第三は緊急事態への対策として管理することです。緊急事態への準備及び対応はまさにこの環境側面管理のプロセスに当たるわけです。

 ISO14001では著しい影響を与えるとともに与える可能性がある側面も特定することを求めています。そのために多くの場合「起こりうる可能性」と「結果の重大性」との関係からリスクを評価します。緊急事態の特定は有害な環境側面の評価である上記リスク評価のプロセスの中で行われます。それゆえ、組織が保有する、あるいは取り扱う物質の量や性質(有害性)、管理の状態、作業方法等に左右されます。たとえば以下のような場合です。


  • -薬剤タンクの注入口が排水溝の真上にある。薬剤注入時にホースが外れると、薬剤が排水溝に流れ、そのまま公共用水へ流出する恐れがある。
  • -河川に隣接する地山作業を実施中に激しい雨に見舞われると、地山の崩落で河川の汚濁を引き起こす可能性がある。
  • -油圧機械を搭載した建設機械で河川工事を実施中に油圧系のパイプが破裂すると、水面に油膜が広がる可能性がある。

 これらの潜在事故に対しては、まずはその頻度を下げるための処置(予防処置)と事故が起きてからの被害を最小にするための処置(緩和処置)を確立し、手順化しておくことが必要です。たとえば上記の最初の例では、薬剤タンクの注入口にホースが密着固定する構造にするとか、防液堤を設置する、受器を備え付けるなどの予防処置と、薬剤が排水溝に流出しても公共用水に流入する前に食い止めるための土嚢を準備するなどです。また、普段から内外のコミュニケーションルートを確保しておくことも重要です。対策手順は事象発生後は勿論、定期的にもレビューし、可能ならテストして普段から緊急事態に備えることが必要です。

 次回は「内部監査」について解説します。