GHGとは?Scope1,2,3や種類と算定方法までわかりやすく解説

2025/08/04OTHER

近年、企業のサステナビリティ活動において「GHG」という言葉を耳にする機会が増えました。これは「Greenhouse Gas」の略称で、日本語では「温室効果ガス」と訳されます。地球温暖化の主な原因とされ、その排出量削減は世界共通の課題です。この記事では、GHGの基本的な知識から、企業が求められる具体的な算定方法、削減への取り組みまで、担当者の方が押さえておくべきポイントを網羅的に解説します。

GHG(温室効果ガス)とは?

GHG(温室効果ガス)は、企業の環境への取り組みを語る上で欠かせないキーワードです。まずは、その基本的な定義と、よく混同されがちなCO2排出量との違いについて理解を深めましょう。

GHGは地球温暖化を引き起こすガスの総称

GHG(温室効果ガス)とは、地球の表面から宇宙空間へ放出される熱(赤外線)の一部を吸収し、再び放出する性質を持つ気体の総称です。 この性質により、地球の大気は暖められ、生物が住みやすい温度に保たれています。これを「温室効果」と呼びます。しかし、産業革命以降、人間活動によって大気中のGHG濃度が急激に上昇したことで、この温室効果が過剰に強まり、地球温暖化を引き起こす主な原因となっています。

CO2排出量との具体的な違い

GHGとCO2(二酸化炭素)はしばしば同義で語られますが、厳密には異なります。GHGは、二酸化炭素(CO2)、メタン(CH4)、一酸化二窒素(N2O)、フロンガス類など、複数のガスの集まりを指す言葉です。 一方、CO2排出量は、そのGHGの中の一つの要素に過ぎません。

ただし、日本のGHG総排出量のうち9割以上をCO2が占めているため、GHG削減においてCO2の削減が最も重要視されています。 そのため、多くの場面で「CO2削減」が「GHG削減」の代表的な指標として扱われます。GHG排出量を報告する際は、各ガスの温室効果の強さをCO2を基準とした「CO2換算値(CO2e)」に変換して合計するのが一般的です。

項目 GHG(温室効果ガス) CO2(二酸化炭素)
定義 温室効果をもたらす気体の総称 温室効果ガスの一種類
主な種類 CO2, メタン, N2O, フロンガスなど CO2のみ
関係性 CO2はGHGの一部 -

GHGが地球の気温を保つ仕組み

地球の表面は、太陽からの光によって暖められています。そして、暖められた地表からは熱が赤外線として宇宙空間に放出されます。大気中に存在するGHGは、この赤外線を吸収・再放出することで、熱が宇宙へ逃げるのを防ぎ、地球を暖かく保つ役割を果たしています。 この働き自体は、地球の平均気温を約15℃に保つために不可欠なものです。もしGHGがなければ、地球の表面温度は氷点下19℃程度になると考えられています。 問題となっているのは、人間活動によってGHGが過剰に増加し、熱の吸収量が増えすぎたことによる気温の急激な上昇、すなわち地球温暖化です。

GHG(温室効果ガス)の主な種類

京都議定書では、削減対象となるGHGとして6種類が定められましたが、現在では三フッ化窒素(NF3)を加えた7種類が主要な対象ガスとして認識されています。 それぞれのガスは発生源や温室効果の強さが異なります。

GHGの種類 地球温暖化係数(GWP・100年値) 主な排出源
二酸化炭素(CO2) 1 化石燃料の燃焼、セメント生産
メタン(CH4) 28 農業(稲作、家畜)、天然ガス採掘
一酸化二窒素(N2O) 298 窒素肥料の使用、工業プロセス
フロンガス類(HFCs、PFCs、SF6、NF3) 12~22,800以上 冷蔵庫・エアコンの冷媒、半導体製造

二酸化炭素(CO2)

二酸化炭素は、GHGの中で最も排出量が多く、地球温暖化に与える影響が最も大きいガスです。 主な発生源は、石油や石炭といった化石燃料の燃焼です。発電所、工場の生産活動、自動車の走行、家庭でのエネルギー消費など、私たちの生活や経済活動のあらゆる場面で排出されます。

メタン(CH4)

メタンは、CO2に次いで地球温暖化への影響が大きいとされるガスです。 CO2と比較して温室効果が28倍も高いとされています。 主な発生源は、家畜のゲップ(消化管内発酵)、水田、天然ガスの採掘、廃棄物の埋め立てなど多岐にわたります。

一酸化二窒素(N2O)

一酸化二窒素(亜酸化窒素)は、CO2の約298倍という非常に高い温室効果を持ちます。 主な発生源は、窒素肥料の使用、工業プロセス、燃料の燃焼などです。

フロンガス(HFCs、PFCs、SF6、NF3)

フロンガスは、ハイドロフルオロカーボン類(HFCs)、パーフルオロカーボン類(PFCs)、六フッ化硫黄(SF6)、三フッ化窒素(NF3)などの総称です。これらは自然界には存在しない人工の化学物質で、エアコンや冷蔵庫の冷媒、半導体の製造プロセスなどで使用されます。CO2の数百倍から数万倍という極めて高い温室効果を持つため、排出量の削減が強く求められています。

なぜ今、GHG排出量の削減が求められるのか?

世界中で異常気象が頻発し、気候変動が私たちの生活や経済に与える影響は深刻さを増しています。この気候変動の主な原因がGHGの増加であることから、その削減は国際社会における喫緊の課題となっています。

世界のGHG排出量と地球温暖化の現状

国連環境計画(UNEP)の報告によると、世界のGHG排出量は増加傾向にあり、2022年には過去最高値を記録しました。 これに伴い、世界の平均気温は上昇を続けており、産業革命以前と比較してすでに1℃以上高くなっています。このまま温暖化が進行すると、さらなる海面上昇、生態系の破壊、食糧危機など、取り返しのつかない影響が予測されています。

パリ協定で定められた国際的な削減目標

こうした危機的な状況を受け、2015年に国連で「パリ協定」が採択されました。これは、世界の平均気温上昇を産業革命以前に比べて2℃より十分に低く保ち、1.5℃に抑える努力を追求することを目的とした国際的な枠組みです。 この目標達成のため、世界各国がGHG削減目標を掲げ、対策を進めています。

日本政府が掲げるカーボンニュートラルの目標

日本もパリ協定のもと、意欲的な目標を掲げています。2020年には「2050年までにカーボンニュートラルを目指す」ことを宣言しました。 カーボンニュートラルとは、GHGの排出量から森林などによる吸収量を差し引いて、合計を実質的にゼロにすることです。さらに、その中間目標として「2030年度にGHG排出量を2013年度比で46%削減する」ことも表明しています。 この目標達成には、国や自治体だけでなく、産業界、そして個々の企業の取り組みが不可欠です。

企業がGHG排出量を把握する重要性

GHG削減は、もはや社会貢献活動の一環ではなく、企業の存続と成長に直結する経営課題となっています。自社の排出量を正確に把握し、削減に取り組むことには、多くのメリットがあります。

投資家から評価されるESG経営の実践

近年、企業の財務情報だけでなく、環境(Environment)、社会(Social)、ガバナンス(Governance)への配慮を重視して投資先を選ぶ「ESG投資」が世界の潮流となっています。 GHG排出量の算定と削減への取り組みは、「E(環境)」における最も重要な評価項目の一つです。積極的に情報開示を行うことで、投資家からの評価が高まり、資金調達を有利に進められる可能性があります。

サプライチェーンからの要請への対応

環境意識の高いグローバル企業を中心に、自社だけでなく、取引先を含むサプライチェーン全体でのGHG削減を求める動きが加速しています。AppleやTOYOTAといった企業は、サプライヤーに対して再生可能エネルギーの利用やGHG削減を要請しています。今後、こうした要請に応えられない企業は、取引の機会を失うリスクがあります。

新たなビジネスチャンスの創出

GHG削減への取り組みは、コストやリスクだけではありません。省エネ製品や低炭素なサービスの開発は、新たな市場を開拓するチャンスに繋がります。また、サプライチェーン上の他社と連携してGHG削減を進める中で、新たな協業が生まれ、本業のビジネスを拡大させるきっかけとなることもあります。

取り組みによるメリット 具体的な内容
資金調達の有利化 ESG投資を重視する投資家からの評価向上
取引の継続・拡大 サプライチェーンからのGHG削減要請への対応
コスト削減 省エネによるエネルギーコストの削減
企業価値の向上 環境配慮型企業としてのブランドイメージ向上

GHG排出量の算定方法「Scope」とは?

企業がGHG排出量を算定する際には、国際的な基準である「GHGプロトコル」で定められた「Scope(スコープ)」という考え方を用いるのが一般的です。これは、排出の発生源に応じて、排出量を3つの区分に分類するものです。

Scope区分 排出源の例
Scope1 工場のボイラー、自社保有の車両
Scope2 購入した電力、熱、蒸気
Scope3 原材料の調達、輸送・配送、従業員の通勤、製品の使用・廃棄

Scope1:事業者自らの直接排出

Scope1は、自社が所有・管理する排出源から直接排出されるGHGを指します。 具体的には、工場で燃料を燃焼させたり、社用車がガソリンを使用したりすることで発生するGHGがこれにあたります。自社で直接コントロールできる排出量であるため、削減努力の第一歩となります。

Scope2:間接的なエネルギー起源の間接排出

Scope2は、自社が購入した電気、熱、蒸気の使用に伴って間接的に排出されるGHGです。 例えば、オフィスで使用する電力は、発電所が化石燃料を燃やして作っている場合、その発電過程でGHGが排出されています。自社が直接排出しているわけではありませんが、そのエネルギーを使用した責任として排出量を算定します。

Scope3:その他の間接排出

Scope3は、Scope1、Scope2以外の、サプライチェーン全体で発生する間接的なGHG排出を指します。 原材料の調達、製品の輸送、従業員の通勤、販売した製品の使用・廃棄など、15のカテゴリに分類されます。自社の活動に関連するあらゆる排出が含まれるため、算定範囲が最も広く、複雑になります。

なぜサプライチェーン全体での算定が必要なのか

多くの企業にとって、自社の直接排出(Scope1, 2)よりも、サプライチェーン上で発生する間接排出(Scope3)の方がはるかに多いのが実情です。そのため、GHGを効果的に削減するためには、自社だけでなく、原材料の調達から製品の廃棄に至るまで、サプライチェーン全体で排出量を把握し、削減に取り組むことが不可欠です。

GHG排出量を算定する具体的な手順

GHG排出量の算定は、専門的で複雑に思えるかもしれませんが、基本的な手順に沿って進めることで、自社の排出量を可視化することができます。

算定の目的と対象範囲を設定する

まず、「なぜ排出量を算定するのか」という目的を明確にします。例えば、「法規制への対応」「取引先への報告」「ESG投資家への情報開示」「自社の削減目標設定」など、目的によって算定すべき範囲や詳細さが異なります。目的に基づき、対象とするGHGの種類、組織的・地理的範囲などを決定します。

活動量を収集し、カテゴリに分類する

次に、GHGを排出する活動の規模に関するデータ(活動量)を収集します。具体的には、購入した電気やガスの使用量、ガソリンの購入量、従業員の出張距離、廃棄物の処理量といったデータです。 これらのデータは、電気・ガスの請求書、購入伝票などから把握できます。収集した活動量は、Scope1, 2, 3の各カテゴリに分類していきます。

排出係数を乗じて計算する

最後に、収集した「活動量」に、その活動量あたりのGHG排出量を示す「排出係数」を掛け合わせて、GHG排出量を算定します。

GHG排出量 = 活動量 × 排出係数

排出係数は、環境省などが公表しているデータベースから入手できます。 例えば、電気使用量(kWh)に、契約している電力会社のCO2排出係数(kg-CO2/kWh)を掛けることで、Scope2の排出量が計算できます。この計算を全てのカテゴリで行い、合計することで、企業全体のGHG排出量が明らかになります。

企業ができるGHG排出量削減の具体的な取り組み

GHG排出量を算定し、自社の排出状況を可視化できたら、次はいよいよ具体的な削減行動に移ります。削減方法は多岐にわたりますが、ここでは主要な取り組みを紹介します。

エネルギー効率の向上と省エネの徹底

最も基本的かつ効果的な取り組みは、エネルギーの使用量を減らすことです。生産性の高い最新の省エネ設備に更新する、工場の断熱性を高める、オフィスの照明をLEDに切り替えるといった施策が考えられます。日々の業務の中で、こまめに電気を消す、空調の温度を適切に設定するといった地道な省エネ活動も重要です。

再生可能エネルギーへの切り替え

自社で使用する電力を、太陽光、風力、水力といった再生可能エネルギー由来のものに切り替えることは、Scope2の排出量を大幅に削減する有効な手段です。自社の屋根や敷地に太陽光発電設備を設置する方法のほか、再生可能エネルギー由来の電力プランを契約する、非化石証書を購入するといった方法もあります。

サプライチェーン全体での最適化

Scope3排出量を削減するためには、サプライヤーや顧客との連携が不可欠です。輸送手段をトラックから鉄道や船舶へ切り替える(モーダルシフト)、低炭素な原材料を供給できるサプライヤーを選定する、製品の長寿命化やリサイクルしやすい設計にするといった取り組みが挙げられます。

自社での削減が困難な場合のカーボン・オフセット

省エネや再エネ導入を最大限行っても、どうしても削減しきれない排出量については、「カーボン・オフセット」という手段も選択肢となります。これは、植林プロジェクトや他社のGHG削減プロジェクトへ投資し、そこで生まれた削減・吸収量(カーボン・クレジット)を購入することで、自社の排出量を相殺(オフセット)する仕組みです。 ただし、これはあくまで補完的な手段であり、まずは自社での削減努力を優先することが大前提となります。

まとめ

GHG排出量の削減は、もはや避けられない世界の潮流であり、企業にとっての重要な経営課題です。GHGの定義や種類、Scopeの概念を正しく理解し、自社の排出量を算定することから始めてください。そして、省エネ、再エネ導入、サプライチェーンでの連携といった具体的な削減策を実行していくことが、持続可能な未来と企業の成長の両立に繋がります。

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また詳細は、 GHG排出量検証/CFP(カーボンフットプリント)/LCA(ライフサイクルアセスメント)検証 をご参照ください。