LCA(ライフサイクルアセスメント)とは?意味や目的、企業の取り組み事例を解説!
2025/08/07OTHER
近年、企業の環境活動において「LCA」という言葉を耳にする機会が増えました。これは、製品やサービスが環境に与える影響を評価するための重要な手法です。しかし、その具体的な意味や目的、企業にとってのメリットを正確に理解している方はまだ多くないかもしれません。
この記事では、LCA(ライフサイクルアセスメント)の基本的な概念から、注目される背景、具体的な算定手順、そして国内外の企業の活用事例までを網羅的に、そして分かりやすく解説します。
LCA(ライフサイクルアセスメント)とは?製品の一生を評価する手法
LCA(ライフサイクルアセスメント)とは、製品やサービスがその一生を通じて環境にどれだけの影響を与えるかを、科学的かつ定量的に評価する手法のことです。原材料の調達から製造、使用、そして最終的な廃棄やリサイクルに至るまでの全段階を評価の対象とします。
「ゆりかごから墓場まで」環境負荷を追跡する考え方
LCAは、しばしば「ゆりかごから墓場まで(from cradle to grave)」という言葉で表現されます。これは、製品のライフサイクルを人間の誕生から死までになぞらえたものです。 具体的には、以下のような段階が含まれます。
- ・ 資源採取・原料生産: 製品の元となる天然資源の採掘や原材料の生産
- ・ 製品生産: 部品の加工や製品の組み立て
- ・ 流通・消費: 製品の輸送、販売、そして消費者による使用
- ・ 廃棄・リサイクル: 使用後の製品の廃棄や、再資源化
従来、環境負荷は工場の排煙など、生産段階の一部だけで評価されがちでした。しかしLCAでは、これらの全段階を包括的に見ることで、ある段階で環境負荷を減らしても別の段階で増えてしまう「トレードオフ」を見逃さず、総合的な環境影響を把握できます。
環境への影響を定量的・多角的に評価
評価の側面 | 具体的な環境問題の例 |
地球環境 | 地球温暖化、オゾン層破壊 |
地域球環境 | 大気汚染、水質汚濁、酸性化 |
資源 | 鉱物資源の枯渇、化石燃料の枯渇 |
生態系 | 生物多様性の損失、生態毒性 |
LCAのもう一つの大きな特徴は、環境への影響を「定量的」かつ「多角的」に評価することです。 「環境にやさしい」といった曖昧な表現ではなく、「温室効果ガスの排出量をCO2換算で〇〇kg削減」というように、具体的な数値で示します。
さらに、評価する影響も地球温暖化だけでなく、オゾン層の破壊、酸性雨、資源の枯渇、生態系への毒性など、さまざまな側面から分析します。 これにより、企業は自社の製品やサービスがどの環境問題に、どの程度影響しているのかを客観的に理解し、的確な対策を立てることが可能になります。
なぜ今LCAが注目されているのか?
LCAという考え方自体は以前から存在していましたが、近年その重要性が急速に高まっています。その背景には、世界的な環境意識の高まりと、それに応じた社会や経済の変化があります。
パリ協定から続く世界的な脱炭素化の潮流
2015年に採択されたパリ協定以降、世界各国で脱炭素社会の実現に向けた動きが加速しています。 日本も2050年カーボンニュートラルの達成を目標に掲げており、企業にはサプライチェーン全体での温室効果ガス排出量の削減が強く求められています。LCAは、製品単位での排出量を正確に算定し、削減目標を達成するための具体的な道筋を描く上で不可欠なツールとして認識されています。
サプライチェーン全体で責任を負う考え方の浸透
製品の環境負荷に対する責任は、製造者だけが負うものではないという考え方が広がっています。日本では2001年に施行された「循環型社会形成推進基本法」で、生産者が使用後の廃棄やリサイクルにまで責任を負う「拡大生産者責任(EPR)」の概念が導入されました。 LCAは、この拡大生産者責任を果たす上で、自社製品がライフサイクル全体でどのような環境負荷を持つかを把握するための基礎的な手法となります。
投資家や消費者からの環境配慮への要請
近年、企業の環境(Environment)、社会(Social)、ガバナンス(Governance)への取り組みを重視する「ESG投資」が世界の潮流となっています。投資家は、企業の持続可能性を評価する指標として、LCAに基づいた環境情報の開示を求めるようになっています。 また、消費者も環境意識の高い製品を選ぶ傾向が強まっており、LCAによって環境性能を分かりやすく示すことは、企業の競争力を高める上でも重要です 。
企業がLCAに取り組む3つのメリット
LCAの実施は、企業にとって単なるコストではなく、持続的な成長に向けた重要な投資となります。ここでは、LCAがもたらす主な3つのメリットを解説します。

環境負荷の可視化と具体的な削減箇所の特定
LCAを実施する最大のメリットは、自社の製品やサービスのライフサイクルのどの段階で、どの程度の環境負荷が発生しているかを正確に「見える化」できる点です。 例えば、製造段階よりも原材料の調達段階でCO2排出量が多い、といった事実が明らかになることもあります。この客観的なデータに基づいて、最も効果的な削減策は何かを特定し、的を絞った改善活動を行うことができます。
企業価値とブランドイメージの向上
LCAに基づいた環境情報を積極的に開示することは、環境問題に真摯に取り組む企業姿勢を内外に示すことにつながります。 これは、ESG投資を重視する投資家からの評価を高めるだけでなく、「環境に配慮した企業」としてのブランドイメージを確立し、消費者や取引先からの信頼を獲得する上でも大きな効果を発揮します。
環境配慮による新たなビジネス機会の創出
LCAを通じて自社製品の環境性能を深く理解することは、新たな技術開発やビジネスモデルの創出につながる可能性があります。環境負荷の低い新しい素材を採用したり、リサイクルしやすい製品設計を追求したりすることで、他社との差別化を図り、新たな市場を開拓できるかもしれません。また、LCAの算定サービス自体を新たなソリューションとして提供する企業も現れています。
LCA導入の前に知っておきたいデメリットと課題
LCAは多くのメリットをもたらす一方で、導入にあたってはいくつかの課題や困難が伴います。事前にこれらを理解しておくことが、スムーズな導入計画の策定につながります。

算定にかかるコストと専門知識の必要性
LCAの算定は複雑であり、国際規格(ISO)などの専門的な知識が求められます。 正確な算定を行うためには、専門のコンサルタントに依頼したり、専用のソフトウェアを導入したりする必要があり、相応のコストが発生します。また、社内でLCAを推進するための人材育成にも時間と費用がかかる場合があります。
サプライチェーン全体からの正確なデータ収集の難しさ
LCAでは、自社内だけでなく、原材料のサプライヤーから製品の廃棄を担う業者まで、サプライチェーン全体にわたる多岐なデータを収集する必要があります。 特に、取引先が多岐にわたる場合や、海外の企業が関わる場合には、必要なデータを正確かつ網羅的に集めることが困難なケースも少なくありません。データの精度がLCAの結果そのものの信頼性を左右するため、データ収集はLCAにおける大きな課題の一つです。
LCAの具体的な算定手順の4ステップ
LCAの実施方法は、国際標準化機構(ISO)によって「ISO14040」および「ISO14044」という規格で定められています。 これに準拠することで、信頼性の高い評価が可能になります。ここでは、その手順を4つのステップに分けて解説します。

手順1:目的と調査範囲の設定
最初に、何のためにLCAを実施するのかという「目的」を明確にします。例えば、「製品Aの環境負荷を把握し、改善点を見つける」「製品Bと製品Cの環境性能を比較する」「環境報告書で公表する」といった目的が考えられます。
次に、目的に応じて「調査範囲」を設定します。これには、評価の対象とするライフサイクルの範囲(システム境界)や、評価する製品・サービスの機能(機能単位)を定義することが含まれます 。
手順2:インベントリ分析(LCI)
インベントリ分析(Life Cycle Inventory Analysis, LCI)は、設定した調査範囲において、投入される資源やエネルギー(インプット)と、排出される環境負荷物質(アウトプット)の量をリストアップする作業です。 各ライフサイクル段階で、どれだけの電力、燃料、水、原材料が使われ、どれだけのCO2、NOx、廃棄物が出たかを、具体的なデータとして収集・整理します。
手順3:影響評価(LCIA)
影響評価(Life Cycle Impact Assessment, LCIA)では、インベントリ分析で集計したデータが、具体的にどのような環境問題に、どの程度の影響を与えるかを評価します。 例えば、CO2やメタンの排出量を「地球温暖化」という影響領域に分類し、それぞれの温暖化への寄与度(地球温暖化係数)を考慮して、CO2換算の総量として算出します。これにより、異なる種類の環境負荷を共通の尺度で比較できるようになります。
手順4:解釈
最後のステップでは、インベントリ分析と影響評価の結果を、最初に設定した「目的」に照らし合わせて解釈し、結論を導き出します。 どのライフサイクル段階や、どの物質が環境負荷に最も大きく寄与しているかを特定し、その結果の信頼性や不確実性を評価した上で、改善策の提案や意思決定を行います。この結果は、関係者への報告や情報公開に活用されます。
LCAと関連用語の違いを整理
LCAについて学ぶ際には、Scope3やカーボンフットプリント(CFP)といった類似の用語が登場します。これらは密接に関連していますが、意味は異なります。その違いを正しく理解しておきましょう。
用語 | 評価対象 | 評価する環境影響 | 目的・役割 |
LCA | 製品・サービス | 地球温暖化、酸性化、資源枯渇など多岐にわたる | 環境負荷の全体像を把握し、改善策を検討するための手法 |
Scope3 | 企業・組織 | 温室効果ガス | 自社のサプライチェーンにおける間接的な排出量を算定するための範囲 |
CFP | 製品・サービス | 温室効果ガス(地球温暖化に特化) | 製品のCO2排出量を可視化し、消費者に情報提供するための仕組み・指標 |
LCAとScope3の違いは評価対象
LCAとScope3は混同されやすいですが、根本的な違いは評価対象にあります。
- ・ LCA: 個別の「製品・サービス」の一生(ライフサイクル)における環境負荷を評価する手法です。
- ・ Scope3: ある「企業・組織」の事業活動に関連する間接的な温室効果ガス排出量の範囲を指します。
Scope3は、企業のサプライチェーン全体の排出量を算定するための枠組みであり、その算定の際にはLCAの考え方や手法が活用されます。つまり、LCAはScope3を算定するための基礎となるアプローチと言うことができます。
LCAとカーボンフットプリント(CFP)の関係性
カーボンフットプリント(Carbon Footprint of Products, CFP)とは、製品やサービスのライフサイクル全体で排出される温室効果ガスの総量をCO2に換算して表示する仕組み、またはその数値自体のことです。
これは、LCAで評価する多くの環境影響領域の中から、「地球温暖化」という一つの側面に特化したものと考えることができます。LCAという大きな評価手法を用いて、CFPという指標を算出する、という関係性です 。
LCAの具体的な企業活用事例
国内外の多くの先進企業が、LCAを経営戦略や製品開発に積極的に活用しています。ここでは、その具体的な事例をいくつか紹介します。
【自動車業界】マツダ株式会社のパワートレイン比較
マツダは、電気自動車(EV)とガソリン車のライフサイクル全体でのCO2排出量を比較するLCAを実施しました。 その結果、走行距離が短い段階では、製造時の排出量が大きいEVの方がガソリン車よりも総排出量が多くなる場合があることを明らかにしました。この研究は、単に走行時だけでなく、電源構成や生涯走行距離といった要因を考慮した多角的な視点の重要性を示し、顧客への最適な車種提案に活用されています。
【アパレル業界】Allbirds社のカーボンフットプリント公開
ニュージーランド発のスニーカーブランドAllbirdsは、自社の全製品のカーボンフットプリント(CFP)を算定し、オンラインで公開しています。 LCAの手法を用いて算定された数値を「スマホの充電〇〇回分」といった身近なものに例えて示すことで、消費者が自身の購買行動による環境負荷を直感的に理解できるよう工夫しています。これは、企業の透明性を示すと同時に、消費者の環境意識を高める取り組みとして評価されています。
【電機メーカー】株式会社日立製作所のCO2排出量削減効果の提示
日立製作所は、自社が提供する製品やサービスが、顧客の事業活動においてどれだけのCO2排出量削減に貢献するかをLCAの手法を用いて定量的に評価し、公表しています。 これは、自社の環境負荷を減らすだけでなく、社会全体のカーボンニュートラルに貢献するという視点であり、LCAをビジネス機会の創出につなげている好例と言えます。
まとめ:LCAは脱炭素経営に不可欠な第一歩です
本記事では、LCA(ライフサイクルアセスメント)の基本的な概念から、その重要性、メリット、具体的な手順、そして企業の活用事例までを解説しました。LCAは、製品の一生を見通して環境負荷を科学的に評価する、信頼性の高い手法です。
LCAを導入することは、自社の環境影響を正確に把握し、効果的な削減策を講じるための第一歩となります。そして、その取り組みは、企業価値の向上や新たなビジネスチャンスにもつながる可能性を秘めています。脱炭素社会の実現に向けて、LCAへの理解を深め、自社の活動に取り入れていくことが、これからの企業経営においてますます重要になるでしょう。
インターテック・サーティフィケーションでは、ISO 14040/14044に準拠したLCA(ライフサイクルアセスメント)検証サービスを提供しております。第三者による検証により、環境影響評価の信頼性が向上し、利害関係者との効果的なコミュニケーションが可能になります。グローバル対応と柔軟なサービス提供で、お客様のニーズに合わせた最適な検証プランをご提案いたします。
ご興味がございましたら、 お問い合わせフォーム より、お気軽にお問合せください。
また詳細は、 GHG排出量検証/CFP(カーボンフットプリント)/LCA(ライフサイクルアセスメント)検証 をご参照ください。