連載(79) IPCC第6次統合報告書/温室効果ガス排出の緊急性
2023/07/28Intertek News(81号)
環境主任審査員 郷古 宣昭 Nobuaki Goko
国連の気候変動に関する政府間パネル(IPCC)による第6次評価報告書は、「自然科学的根拠」「影響・適応・脆弱性」「気候変動の緩和」の3作業部会の報告として2021年から発表されていますが、その中から重要事項を再提示し、緊急に対応すべき指針を記した統合報告書が2023年3月に発表されました。
パリ協定「気温上昇1.5℃」への指針
「今すぐ実行」の理由は、温室効果ガスの排出ゼロを実現しても、それまで大気及び海中に蓄積した温室効果ガスによる温暖化は進行するので、目指す気温上昇1.5℃抑制が達成できなくなる可能性があります。つまり、排出ゼロに至る途上には目標の気温抑制に対応する排出許容量(*)があり、常にこれを厳守することが求められます。
*「カーボンバジェット(予算)」と呼称している。
G7気候・エネルギー・環境大臣会合での合意
日本が議長国を務めるG7気候・エネルギー・環境大臣会合が札幌市で開催され、4月16日の共同声明には上記のIPCC統合報告の意向を汲んで2030年までの洋上風力発電と太陽光発電の導入規模の拡大及び気温上昇1.5℃目標達成のための迅速で具体的な行動が明記されました。更に、排出削減が講じられていない化石燃料は天然ガスを含めて発電部門での段階的廃止が合意されました。
しかし、COP26以来の懸案である石炭火力発電の全廃時期は日本の反対で合意が得られず、COP27で見送った各国の2030年の温室効果ガスの削減目標引き上げについて具体的な数値確認は記載がありません。更に、日本政府が推進する石炭火力発電への水素・アンモニア混焼による脱炭素化はG7共通方針としては認められず、一部の国が実施する場合でもカーボンバジェットの順守と副生するチッソ酸化物の排出回避措置を必要とすることが記載されています。
日本の温室効果ガス排出目標
日本の2030年温室効果ガス削減目標は2013年比46%で、2019年比換算では37%に留まります。このペースではIPCCの指針である2035年60%削減(2019年比)も達成困難になります。日本は2030年目標の引き上げに加えて、IPCC報告書の指針に従って60%以上の温室効果ガスを削減する2035年目標を策定することが必要です。
また、日本政府が進めるアンモニアを火力発電に混ぜる混焼発電は、現時点の混焼率が20%ですので削減効果が小さく、チッソ酸化物対策を含めてアンモニア100%燃焼技術確立は先のことになりそうです。更にアンモニアは化石燃料から得た水素を原料とするのでアンモニア供給者側に温室効果ガスの排出を移すことになり、意味がありません。ドイツは2023年4月で原発を全廃し、自然エネルギー80%に向けて動き出しました。日本は火力発電へのこだわりを捨て、風力や太陽光・地熱などの自然エネルギーへの転換や蓄電・送配電制御等の技術に取り組むことを期待したいところです。
議長国は世界の諸問題の解決に向い、G7諸国の議論をまとめ、関係各国の協調をリードする役割を担います。日本は議長国としてG7・G20諸国を指導し、G7環境大臣会議で同意を得ている洋上風力・太陽光発電の導入拡大・加速に全力をあげるべきと思います。